【side 玲美】
シャーペンが紙を引っ掻くカリカリという音と、誰かの深いため息だけが、静まり返った空間に響いていた。
学期末テスト前日。
いつもなら大音量で音楽を流し、馬鹿騒ぎをしている飛龍の溜まり場である廃倉庫は、今日ばかりは異様な静けさに包まれていた。なんと、あの喧嘩しか能がないと思っていた飛龍のメンバーたちが、必死な顔でテスト勉強に取り組んでいたのだ。
「あーもう! この数学の公式、何度見ても呪文にしか見えねぇ……!」
「総長、そこさっき九条さんに教わったばっかッスよ……」
私たちも彼らに倣い、幹部室の長机にノートを広げていた。
消しゴムのカスを払いながら、剛田の悲鳴を聞いて小さく笑う。不良たちが真面目に赤点回避のために頭を抱えているこの光景は、どこまでも「普通の高校生」らしくて、私にとってはひどく居心地の良い時間だった。
けれど、壁掛け時計の針が午後6時を指した瞬間、その温かな魔法は強制的に解かれる。
「……そろそろ行くね。親が心配するから」
私はノートを閉じ、スクールバッグに教科書を詰め込みながら立ち上がった。
『親が心配するから』――我ながら、反吐が出るほど白々しい嘘だ。私を心配する親なんて存在しないし、私たちを待っているのは親の温かい夕食ではなく、血生臭い組の命令だけ。
「おう、気をつけて帰れよ! 姫様、夜道は危ねぇからな!」
「晴樹、玲美たんをちゃんと家まで送り届けろよ!」
何も知らない剛田や佐伯たちが、無邪気に手を振ってくれる。その笑顔に胸が痛みながらも、私は「うん、また明日」と嘘にまみれた笑顔を返し、晴樹と共に倉庫を後にした。
シャーペンが紙を引っ掻くカリカリという音と、誰かの深いため息だけが、静まり返った空間に響いていた。
学期末テスト前日。
いつもなら大音量で音楽を流し、馬鹿騒ぎをしている飛龍の溜まり場である廃倉庫は、今日ばかりは異様な静けさに包まれていた。なんと、あの喧嘩しか能がないと思っていた飛龍のメンバーたちが、必死な顔でテスト勉強に取り組んでいたのだ。
「あーもう! この数学の公式、何度見ても呪文にしか見えねぇ……!」
「総長、そこさっき九条さんに教わったばっかッスよ……」
私たちも彼らに倣い、幹部室の長机にノートを広げていた。
消しゴムのカスを払いながら、剛田の悲鳴を聞いて小さく笑う。不良たちが真面目に赤点回避のために頭を抱えているこの光景は、どこまでも「普通の高校生」らしくて、私にとってはひどく居心地の良い時間だった。
けれど、壁掛け時計の針が午後6時を指した瞬間、その温かな魔法は強制的に解かれる。
「……そろそろ行くね。親が心配するから」
私はノートを閉じ、スクールバッグに教科書を詰め込みながら立ち上がった。
『親が心配するから』――我ながら、反吐が出るほど白々しい嘘だ。私を心配する親なんて存在しないし、私たちを待っているのは親の温かい夕食ではなく、血生臭い組の命令だけ。
「おう、気をつけて帰れよ! 姫様、夜道は危ねぇからな!」
「晴樹、玲美たんをちゃんと家まで送り届けろよ!」
何も知らない剛田や佐伯たちが、無邪気に手を振ってくれる。その笑顔に胸が痛みながらも、私は「うん、また明日」と嘘にまみれた笑顔を返し、晴樹と共に倉庫を後にした。

