檻の外へー極道なんて、大嫌いー

「……」
私は無言でそっとフタを閉めようとしたが、笑い転げる飛龍のメンバーたちの声は止まらない。
「おい晴樹! お前、姫様にこんな毒物食わせる気かよ! 虐待だろ!」
「うるせぇ! 見た目はアレだけど、中まで火は通したし味は食えるレベルになってるはずだ!」
ヤンキー口調で吠えながらも、耳まで真っ赤にして反論する晴樹。その必死な様子がさらにおかしくて、屋上は割れんばかりの笑い声に包まれた。
組の人間が見たら卒倒しそうなほどの不敬極まりない態度だが、彼らにとってはこれが日常のじゃれ合いなのだ。
(……本当に、バカみたい)
私は小さく息を吐き出すと、もう一度お弁当箱のフタを開け、お箸でその不格好なタコさんウィンナーを一つ、そっとつまみ上げた。
一口かじると、案の定、焼きすぎでパサパサしていて、塩胡椒も偏っていた。コンビニのお弁当の方が、味だけなら何百倍も美味しい。
でも――どうしてだろう。
焦げた匂いと不器用な愛情が詰まったこのお弁当を、馬鹿騒ぎするカタギの不良たちに囲まれながら食べていると、胸の奥でずっと張り詰めていた冷たい氷が、じんわりと溶けていくような気がしたのだ。
「……まぁ、食べられないことはないわね」
私がそう呟いてハンバーグに箸を伸ばすと、晴樹はホッとしたように顔をほころばせ、周りの連中はさらに「マジかよ姫様、味覚バグってんぞ!」と大騒ぎを再開した。
春の風が吹き抜ける屋上で、私は『極道の娘』であることを忘れ、ただの女子高生として静かに微笑んでいた。