檻の外へー極道なんて、大嫌いー


熱いシャワーを浴びて、ようやくホストクラブの安っぽい香水と、裏路地のタバコの煙の匂いが落ちていく。一番嫌いな匂いだ。肋骨の痛みはかろうじてくっついているものの、お湯が当たるたびに腹部のあざが鈍く疼いた。それでも、身体にこびりついた『極道の汚れ』を洗い流すこの時間だけは、私にとって数少ない安らぎだった。
手早く身体を拭き、キャミソールの上に滑らかなシルクのナイトガウンを羽織る。
本邸にいる時は、いつ誰が部屋に入ってくるか分からないから隙を見せないようにスウェットを着込んでいるけれど、ここは私だけの城だ。タオルで濡れた黒髪の水分を押さえながら、少しだけ肩の力を抜いてリビングへの扉を開けた。
「晴樹、次入っていい……」
言葉の途中で、私はピタリと足を止めた。

リビングのソファーにドカッと腰を下ろしてスマホを見ていた晴樹が、私を見た瞬間、まるで雷にでも打たれたように完全に固まっていたからだ。
「……」
「……っ!?」
数秒の沈黙。
晴樹の顔が、耳の先から頬にかけて、見る見るうちに茹でダコのように真っ赤に染まっていくのが分かった。彼はバッと両手で顔を覆い、あからさまに視線を明後日の方向へと逸らした。
「お、おまっ……! なんでそんな、ヒラヒラで透けそうな格好で出てくんだよ!!」
「ヒラヒラって……ただのナイトガウンだけど」
何をそんなに慌てているのか。彼とは幼馴染で、組の訓練でも汗だくで取っ組み合いをしてきた仲だ。今更、風呂上がりの姿を見られたくらいでどうこうなる関係でもないし、私にとってはただの部屋着だ。
「ばっ……! あー、もう! お前、一応男の前なんだから自覚持てよ! 風邪引くぞ!」
顔を隠したまま、裏返った声で怒鳴る晴樹を見て、私は思わず小さく溜息をついた。
ただでさえ睡眠時間が足りないのに、こんなところで無駄な体力を使わせないで欲しい。けれど、極道の血生臭い世界から戻ってきた直後に見る彼の年相応の純情な反応は、冷え切っていた私の心を、ほんの少しだけ解きほぐしてくれたような気がした。