檻の外へー極道なんて、大嫌いー

だが、実戦で彼女が銃を抜いた時、その弾丸が相手の心臓や眉間を貫いたことは一度もない。彼女はいつも、どんなに乱戦の最中であろうと、必ず綺麗に急所を外して撃っていた。肩、太もも、あるいは武器を持つ手。相手を行動不能にするだけで、絶対に『命』を奪わないように、無意識のうちに恐ろしいほど繊細なコントロールをしていたのだ。
あとは、クスリのシノギ。
組の資金源の一つである違法薬物を運ばされたり、末端の売人を処理したりする時、玲美の顔はいつも能面のように無表情だった。
俺はそれを「極道としての冷徹さ」だと思っていた。だが違う。彼女は、人の人生を狂わせるそのクスリを前にして、心底嫌そうな、吐き気を催すほどの嫌悪感を必死に押し殺していただけだったのだ。
「……玲美」
俺はずっと、自分の高揚感に目が眩んで、彼女の悲鳴に気づかなかった。
彼女は俺と違って、喧嘩も、人を傷つけることも、裏社会の権力も、何一つ望んでなんていなかったのだ。ただ、冷酷な組長から生き延びるため、そして、俺や飛龍のダチとの『普通の日常』を守るために、心を殺して、無理やり極道の仮面を被り続けていただけだった。
「……ごめん」
俺は気がつけば、無意識のうちにそう口にしていた。
「お前がずっと……そんな思いで仕事してたなんて、俺、全然気づけなかった。俺はバカだから、お前も俺と同じで、なんだかんだこの生活に馴染んでるんだって、本気で思ってた」
背中の傷が、ひどく熱く疼いた。
俺が「男の勲章」だと誇り、自ら進んで彫り込んだあの龍の刺青。それは、俺がこの闇の世界で生きることを誓った証だ。俺は嬉々としてその闇に沈んでいったのに、玲美はずっと、光の当たる場所へ逃げ出したくて足掻いていたのだ。
その残酷なすれ違いが、俺の胸をギリギリと締め付けた。