檻の外へー極道なんて、大嫌いー


そして、俺が最も頭を抱えたのが「夜」だ。
若の私室には、最高級のふかふかなキングサイズのベッドが鎮座している。当然、そこに寝かされているのは包帯だらけのお嬢だ。
では、この部屋の主である小鳥遊魁はどこで寝ているのか。
「……若。別の部屋で休まれては? 首を痛めますよ」
五日目の深夜。
残務処理の報告のために部屋を訪れた俺が見たのは、部屋の隅にあるソファベッドに、長身を無理やり折り曲げるようにして横たわる若の姿だった。
「……うるせぇ。離れた部屋にいたら、こいつが夜中に目を覚ました時に気づけねぇだろうが」
若は不機嫌そうに低く唸りながら、寝返りを打って窮屈そうに毛布を被った。
(いや、若の部屋の隣に、いくらでも空きのゲストルームがあるでしょうが……)
喉まで出かかったツッコミを、俺は必死に飲み込んだ。
あの『死神』が、広々とした自分のベッドを妹に明け渡し、こんな狭いソファベッドで毎夜毎夜、妹の寝息をBGMにしながら浅い眠りについているのだ。もしお嬢が少しでも苦しそうに咳き込めば、弾かれたように飛び起きて背中をさすってやるのだろう。
「……大樹」
不意に、ソファベッドから若の低い声が響いた。
「晴樹の様子はどうだ」
「毎日、俺の携帯に鬼電をかけてきています。暴走しそうなのを、なんとか押さえていますが。」
「……そうか。なら、明日には何としてもこいつの目を覚まさせねぇとな」
闇に沈む部屋の中で、若の瞳だけが鋭く光っていた。
不器用で、極端で、どうしようもなく過保護。この男は、どれほど裏社会で恐れられようと、たった一人の妹の前では、ただの『心配性の兄貴』に成り下がってしまうのだ。
俺は静かに一礼すると、重い足取りで部屋を後にした。
明日こそは、あの小さくて無茶ばかりする『お嬢』が目を覚ましてくれることを、誰よりも(俺の睡眠時間と胃袋の平和のために)祈りながら。