檻の外へー極道なんて、大嫌いー


それからというもの、若の行動は常軌を逸していた。
お嬢は、組長から受けた制裁のダメージと、それに伴う高熱により、目を覚まさないまま一日、また一日と過ぎていった。時折、苦しそうに呻き声を上げたり、悪夢にうなされたりするものの、意識が浮上する気配はない。
そんな妹を前にして、若は自分の私室から一歩も出なくなったのだ。
「大樹。幹部会の資料はここに置け。……おい、足音を立てるな。玲美が起きるだろうが」
「大樹。氷枕がぬるい。厨房に行って新しいのを作ってこい」
「大樹。この決裁書類は後回しだ。……それより、熱が下がらないな。専属医をもう一度呼べ」
俺は、若頭補佐としての本来の業務に加え、橘組へのフォロー、若が放置したシノギの裏回し、さらには若頭のパシリ兼、過保護な兄の看護アシスタントという、一人で三役も四役もこなす地獄の日々を送ることになった。
本来、組長に見つかれば「甘やかしだ」とさらに目をつけられかねない状況だ。だからこそ、若は直属の部下以外の組員を一切部屋に入れず、俺一人にすべての雑用と連絡係を押し付けているのだ。
「若。……いくら何でも、そろそろ組長に不審に思われます。明日の定例会には顔を出してください」
三日目の昼。山積みの決裁書類に判を押し続ける若に俺がそう進言すると、彼はお嬢の様子をチラリと確認してから、苛立たしげに舌打ちをした。
「……定例会には出る。だが、俺が不在の間、お前は絶対にここを離れるな。誰かが入ろうとしたら、実力行使で弾き出せ」
「はいはい、了解しましたよ」
(妹の看病に、どんだけ殺気立ってんだこの男は……)
冷酷無比なヤクザの若頭が、妹の呼吸一つ、寝返り一つに一喜一憂し、ベッドの横に張りついて、タオルで慎重に汗を拭っている様子など、他の組員に見せられるわけがない。俺の胃に穴が空くのも時間の問題だった。