東の空が白み始めた頃、俺のスマホがけたたましくバイブレーションを鳴らした。
画面に表示されたのは、弟の『晴樹』の名前。電話に出るなり、鼓膜を劈くような焦燥しきった声が飛び込んできた。
『兄貴!! 玲美が帰って来ないんだけど、なんか知ってねぇか!? 昨日、明日帰れないかもって置き手紙があって、スマホも繋がらなくて……ッ!』
いつになく取り乱す晴樹の声に、俺は短く息を吐いた。
俺も若も、お嬢が「なぜいつも以上にここまで凄惨な罰を受けたのか」「何のシノギで失敗したのか」までは、まだ正確に把握していなかった。だが、今の状況でこの血の気の多い馬鹿野郎を本邸に近づけるわけにはいかない。
「落ち着け、晴樹。……お嬢なら本邸にいる」
『本邸!? なんで……』
「組長の直命で失敗し、罰を受けた。だが安心しろ、今は若の部屋のベッドで看病されている。命に別状はない」
『は……!? 罰って、あの親父殿が……ッ! 俺、今すぐ行く!!』
「馬鹿野郎、来るな!!」
俺は低い声で鋭く一喝した。
「今お前が本邸に乗り込んできたら、それこそ組長への反逆だ。若の立場まで悪くなる。お前が来ると色々と面倒だから、お前は大人しくマンションで待っとけ。……若と俺で、必ず連れて帰る」
『……ッ、くそ……!! 頼む、兄貴……!』
ギリッと歯を食いしばるような音を残し、晴樹は電話を切った。
無力感に苛まれる弟の姿が目に浮かぶが、今は堪えさせるしかない。俺はスマホをポケットにしまい、若頭の私室へと視線を戻した。

