檻の外へー極道なんて、大嫌いー

「……は?」
予想外の命令に、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。
裏社会で『死神』と恐れられる若が、女の肌を見るのに躊躇う? いや、そもそもなんでただの下っ端の俺に、こんな重要な――。
「早くしろ。手当の道具はそこにある」
「あ、押忍……っ!」
有無を言わさぬ凄みに逆らえず、俺は慌てて救急箱を引き寄せ、玲美の横に膝をついた。
意識のない玲美の顔は、幼馴染の俺が見ても胸が締め付けられるほど綺麗で……だからこそ、これから自分がやらなきゃいけないことに一気に血が上るのを感じた。
(落ち着け、俺。これは手当だ。やましいことなんかじゃねぇ……!)
カッと顔を真っ赤にしながら、震える手でそっと、血と泥に汚れたブラウスの裾をめくり上げる。
綺麗な白い肌が露わになる――はずだった。
「……っ!」
俺は、息を呑んで硬直した。
露わになった彼女の華奢な腹部には、どす黒く腫れ上がった真新しい無数の蹴りの痕。それだけじゃない。背中や脇腹にかけて、黄色く変色した古い打撲痕や、刃物でつけられたような生々しい傷跡がいくつも刻み込まれていたのだ。
(なんだよ、これ……)
あまりに酷い新旧のあざ。
俺が学校で「ちゃんと飯食え」なんて呑気なことを言っている裏で、玲美は毎日こんな傷を増やしていたのか。
顔が熱くなるほどの恥じらいなんて、一瞬で消え失せた。代わりに込み上げてきたのは、こんな体になるまで彼女を追い詰める極道という世界への激しい怒りと、何も知らなかった己の不甲斐なさに対する、どうしようもない絶望だった。