檻の外へー極道なんて、大嫌いー

【side 晴樹】

午前四時。
けたたましく鳴り響く内線の音で、俺は弾かれたようにベッドから跳ね起きた。
本邸に住み込んでいる俺の部屋に、こんな時間に内線がかかってくるなんて、ろくな用件じゃない。だが、受話器越しに聞こえた低い声に、俺の眠気は一瞬で吹き飛んだ。
呼び出しの主は俺の尊敬する『若』――玲美の義理の兄である魁だった。
「……失礼しやす」
慌てて身支度を整え、若の広い私室の重厚な扉を開ける。
むせ返るような血の匂い。そして、視線の先に飛び込んできた光景に、俺は息を呑んだ。
キングサイズの広いベッドの中央。そこに、泥と血にまみれ、制服をボロボロにした玲美が意識を失って倒れ伏していたのだ。
青白い顔には生気がなく、浅い呼吸だけが辛うじて彼女が生きていることを示している。
(また、組長の罰か……!)
奥歯をギリッと噛み締める。
玲美が組の仕事で矢面に立たされるようになった中学に上がった頃から、俺は何度もこういう事態に直面してきた。
実の娘を盤上の駒としか思っていないあの冷酷な組長は、玲美が少しでもしくじれば、平気で命に関わるような折檻を下す。
「若……これは」
「チッ……」
ベッドの傍らに立つ若は、苛立たしげに煙草をもみ消しながら俺を睨みつけた。いつもなら氷のように冷たいその瞳が、今はどこか焦燥に揺れているように見える。
「多分腹の怪我が一番やべぇ。でも、俺が見るのは躊躇いがある。だからお前が手当しろ」