君を待つ。桜の下でいつまでも


(すずめ)のさえずりが聞こえた。
朝だと思った。

窓から入ってくる眩しすぎる光に少し苛立ちを覚えながら、のそのそとベッドを出る。

まだ半分寝ている頭でどうにか制服に着替え、寝癖の残る頭で部屋を出た。

一階からはキッチンで何かを焼いたり切ったりする軽快な音が響いていた。

もう母親は起きて、僕の為の朝ご飯を作ってくれている。そう考えるだけで憂鬱な気分が全身を支配した。

「颯ちゃ〜ん!ご飯だから降りてらっしゃい!起きないと遅れちゃうわ!」と、妙に甘ったるく猫撫で声で話しかけてくる母親に「今向かってる」となるべく平然を装いながらゆっくりと階段を降りた。

ここで慌てて降りようものなら、母親に指摘されて家を出るのが遅くなる。

「おはよう」と、母親に声をかけてからリビングのダイニングテーブルにある椅子を引いて座った。

「颯ちゃんおはよう。よく眠れた?今日の朝ごはんは颯ちゃんの大好きなコンソメスープとクロワッサンだからねぇ」

朝から機嫌が良いらしい。

気味が悪い程の微笑みをこちらに向けて、いそいそと料理を持ってくる。

正直なところ、僕はあまり母親の料理は好きではなかった。

彼女の記憶の中では、子供の頃の僕の好みを未だに好きだと思っているらしい。

だけど、この変に甘ったるいコンソメスープも、チョコソースがたっぷり入ったクロワッサンも、僕は好きじゃない。

それでも、食べなければ母親は不機嫌になる、心が荒れる。

朝から機嫌を損ねたくない。いつにも増して酷く甘い朝食を胃袋に詰め込んでは「ごちそうさま」と席を立った。

弁当と水筒を母親から受け取りカバンに詰め、玄関へと向かおうとした時、母親は慌てた様子でこちらに近づいてきて

「颯ちゃん、もう行くの?まだ早くないかなぁ、いつももう少し遅く出ていくじゃない。ママを一人にするの?」

眉を下げ、声を震わせ、どこか幼く何かに縋り付く子供のような母親に吐き気がした。

「……今日は、その……出さないといけない書類があって、職員会議が始まるまでに職員室に行かないとだから」そう言って母の肩に手を置いた。

どこか思うところがあるのだろうが、母親は渋々頷き「行ってらっしゃい。気を付けてね、早く帰ってくるのよ」と手を振って僕を見送った。