「これ、読んで」

一冊の絵本だった。
弟によく読んであげていたのを
思いだした。


私は、素良の膝に抱かれながら
1ページづつ
感情をこめて
読んだ。


小さい頃弟にせがまれて
よく、読んであげた時と気持ちがかぶる。

素良ではなく
弟に読んであげている気持ちになっていた。

最後のページを閉じたとき
素良が私の耳を
優しく愛撫した。

私はそこが素良の膝の上で
愛する人に抱かれていることを
思いだした。

「ぷくちゃん、耳感じるんだね…」

面白がって素良は愛撫を続ける


私はくすぐったさに
身体をよじって悶えた。


「この本さ、かあさんが
クリスマスにプレゼントしてくれたんだ。
寝るときはいつも読んでくれた。
かあさんのあったかい体に
抱きしめられて俺は幸せだったの
覚えてる。
笑顔が優しくて、あったかくて
ポアポアしてて、きれいな声で……

俺が、最後にかあさんの声を聞いたのは
怖い顔で怒鳴って、冷ややかな言葉を
投げかけた、そこら辺のもの
みんな壊して、とうさんを罵った。
小さかったから、何がおきたか
わからなかった。ただ、違うかあさんが
怖くて、ベットに入って
布団にもぐったまま寝てしまった。

俺が起きた時
かあさんはもういなかった。
親戚のおばさんが
俺を抱きしめて泣いた。


かあさんは、もうこの世にはいなかった。

俺のベットには
かあさんの手紙と新しい本が置いてあった。

『素良、この本は自分で読むのよ。
可愛い素良、私の宝物。
ママを許して下さい。』

遺書と、一緒に……」


私は、涙が溢れた。

心の底から湧く母性本能で
素良をしっかり抱きしめた。

私と一緒にいる素良は
その時の幼稚園児のまんまなんだ。

おかあさんに
愛されていた
そのまんま……


素良は、私をぎゅっと抱きしめた。

「ママ…
僕を一人にしないでよ…」

素良が呟いた。