芳樹が素良を振り返った。

「俺が治樹という男の正体と
おまえの存在を知った時
母親の精神は壊れかけていた。
突然、俺と治樹の区別もつかなくなり
俺に『抱いて欲しい』と哀願する。
そうかと思えば
愛する男によく似た息子を
愛する優しい母親に戻る・・・・。

俺は、母親の過去を知りたいと思った。
母親の携帯に入っている
男の名前に治樹はいなかった。
ひとりだけはいっていたのが
陽介・・・
ここの院長の名前だった。
母親の名前を言うと
院長はすぐ俺を芳樹だと
わかってくれた。
そしてすぐとんできてくれて
母親の様子がおかしいことを
理解してくれた。
母親は『ヨウ…』とよんだ。
院長の病院に入院する日
母親は首をつった。

学校に転校届けを
院長と一緒に出して
戻ってきた時に
目の前にぶらさがる母親がいた。

俺は必死に院長を呼んだ。
幸いにも母親はまだ死んでなかったけど
あの日から
ずっと眠りつづけた。」