芳樹は唇を離した。

それと同時に私たちも手を離した。


芳樹は私の髪を優しく撫ぜた。
そして私を抱きしめて
話しだした。


「俺は、ずっと孤独だった。
欲しいものも与えられず
読みたい本も満足に読めなかった。
みんながゲームやテレビの話をしてても
俺にはさっぱりわからなかった。
ある日、父親と妹ができたけど
最初優しかった新しい父親は
しだいに暴力をふるうようになった。
小さな妹だけは
俺を癒してくれた・・・・
俺は父親につれてこられた
小さな妹だけが
生活の光だった。
父親は、母親への暴力も強めていった。
俺は小さい妹を抱きしめるしか
できなかった。
その日は突然だった。
父親が妹をつれて出て行ってしまった。
俺は、また孤独になった。
父親から受ける暴力はつらかったけど
妹がいて、つまらない毎日が
楽しかった。
母親は、小さい頃からずっと俺を通して
他の男の面影を追っていた。
『治樹・・・』
そう呼んでは俺を抱きしめて
俺を治樹として
愛を語り、恨み事をいう。
俺の生きている意味なんてなかった・・・・
ずっと・・・
無意味だった・・・」