その時

「素良!!素良!!」
下から男の人の声がした。

一瞬凍りついた。

「ちょっと、待ってて…」
素良が怪訝な様子で階段を下りて行った。


しばらく素良は戻ってこなかった。

私は素良の机の本を手にとった。
古い絵本だった。


その本をめくっていった最後のページ


  愛する素良
  弱い母を
  憎んでもいい
  忘れないで……
  あなたの愛しい笑顔が
  私をここにとどまらせたけど
  つらいの……
  胸が押しつぶされそう…
  素良の母で生きていこうと
  思って頑張ってきたけど
  あの人の…
  あの人たちの裏切りが
  許せない……
  母の死はあの人たちへの抗議です。
  死をもってあの人たちに十字架を
  背負わせるわ。
  素良…どうか笑顔の絶えない人生で
  ありますように。
  愚かな母のこの世に残す最後の願…
  ごめんなさい……
  母になりきれなかった
  ダメな女です…


「それ、遺書だよ。」

素良の声に飛びあがった。

見てはいけないものを
見てしまった。


「悪いんだけど、親父が挨拶にこいって言うから」


私は、パニくった。