偽りの無い貴方を助けたくて



百合の手を取って、私はもう一度電話して教育委員会に証拠写真を、速やかに送る。



教育委員会の人は、証拠写真を持っていることに驚いてはいたけれど、守る為に取ったのだろうと理解を示してくれた。



すぐさま、次の日学校で話題になる。



だけども、流出先まで事細やかにバレてしまって、私のせいだという声も聞こてしまった。



だけども私は、晴海先生を一人の対等な素晴らしい人間として生きているのを知っているからこそ、負けたくない。



非難轟々の嵐に負けないと思っていたがーーー。





「俺は……校長のことを恨んだりしていない」



そう頑固に、頑なに、晴海先生は非を認めない。


渋々会議室に出たあと、教育委員会さんになんであんな事を、話すんだろうと口走った。



すると、「グルーミングの後遺症よ」とまた理解できない言語をなげかけられた。



その後遺症は、被害を受けた人が自分は、性的暴行を受けていないと心理的に逃げることで、相手のことを尊重していると話す現象なんだそうだ。



ゾッとする。




「クラスメイトの噂、そして貴方の証拠写真を見てーーーこれは相当ひどい状況ね………。


だけど、本人が嫌がっていたんだとしたらーーー裁判に耐えられるどころか、却下される事にもなるかもしれない」




職員室の個室で、百合とそんな話を聞かされて………じゃあ、私に出来ることって。




たんっ、とまた駆け出すように私はタバコを吸っている晴海先生の所へ駆け出した。



まるで暗い部屋で、蹲るように吸う晴海先生の後ろ姿は、暗闇の中で親に締め出された子どものように震えていた。




怖いだろうな……だなんて、思ったけれど。



「先生」



私は、声をかけて晴海先生の隣にそっと座る。



「………来るな。



お取り込み中だ」



ううん、そんなこと言われてもーーー私は負けないよ。



「先生は、そんな弱い人じゃないよね?



本当は、グルーミングの振りをしてるんでしょ?」



と、私は投げかけた。



先生に、震える気配はなかった。



やっぱり、あれは私の考えた勘はあたってたんだ……。


「裁判を取り下げたのは………愛する家族や、学校の生徒たちが非難轟々を受けないために匿ってたんでしょ?」



「お前……なんでそれを?」




「晴海先生は、家族を守る為に動く人だし。


そんな事で動揺するなんて、弱い人じゃないって、私は信じてるから」



晴海先生は答えない。



ただ真っ直ぐ、私を見つめて。



だけど、その瞳に吸い込まれずに負けないようにと、言葉を紡ぐ。


「先生、私ね。


先生の事好きなんだ。



誰よりも、世界で一番好きだっていう自信がある。


だからこそ、晴海先生にはこの世界で笑ってほしいって毎日思うんだ。



だから、だから、証拠写真をあの日、こっそり取った」



晴海先生は、何も答えずにタバコを一服そっぽを向いて吸う。



「先生。


こんな事してても、家族はきっと守れないと思うよ?


家族にこんな悲しいことを背負いながら、生きていく先生のほうが辛くなってさ……それで命をたってしまったらーーそれこそ意味ない。


レイプや、性暴力ってーーーいじめと同じで心の殺人なんだよ?


先生の心はもう一度、殺されてるんでしょ?



だって、こんなくらい所で吸うタバコなんてーーーきっと美味しくないに決まってる。




私は、怖いよ。


こんなくらい所で、私の愛する人がタバコを悲しい顔をして吸っているなんて……。



もう少しは、家族やーーー私みたいな生徒が、晴海先生の心の安全を誰よりも思っていることを考えてよ!!」




ぴたりと、晴海先生のタバコを吸う手が止まった。



晴海先生は、その後ゆっくりと私の頭を撫でて有難うと呟きーーー委員会の人に話したんだって。



裁判で、校長先生は訴えられて賠償金を貰ったけれど、本当の戦いはこれからで……。