君には勝てない



「はあ、……やっと終わった……」

どさりとベッドに倒れ込み、私は深くため息をついた。
今日の集会も、隣町の『狂狼』の不穏な動きのせいでピリピリしていて、総長としての威厳を保つだけでいつも以上にすり減ってしまった。
でも、そんな疲れも、リビングのドアを開ければ一瞬で吹き飛ぶ。

「美月ちゃん、おかえり! 今日もご飯作って待ってたよ」

そう言って、陽太くんはいつも通りひまわりみたいな笑顔で迎えてくれた。
一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、ようやく自分の部屋に戻ってきたところだ。

「……っていうか、同じ家に男の子がいるってだけで、なんでこんなに落ち着かないのよ」

まだ付き合ってもいないのに、壁一枚挟んだ向こうに陽太くんがいる。その事実だけで、私の心臓は朝から晩まで休まる暇がない。

トントン、と遠慮がちなノックの音が響いたのは、私がベッドの中で悶々と考えていたその時だった。

「美月ちゃん、起きてる? ちょっといい?」

「は、はいっ!? お、起きてる、よ!」

裏返りそうな声を必死に整えてドアを開けると、そこには少し眠たそうな目をこする陽太くんが立っていた。
おまけに、昼間私が貸した、あの大きすぎる白Tシャツの襟ぐりから、彼の綺麗な鎖骨が覗いている。

「あのね、ちょっと部屋の電気が消えちゃって……。リモコンの電池、どこにあるかな?」

「あ、電池……? リビングの棚の引き出しに入ってる、と思う」

「ありがと。……あ、美月ちゃん、そのパジャマ……」

陽太くんの視線が、私の着ているピンクのモコモコしたパジャマに留まった。
普段の特攻服姿からは想像もつかない、莉子が「あんた絶対これ似合うから!」と勝手に買ってきた、完全に女の子全開の部屋着だ。

「……っ、あ、これ、これは莉子が勝手に……! 変、だよね。総長がこんなの着てたら威厳も全然ないし――」

恥ずかしさのあまり一気にまくし立てて、ドアを閉めようとした私の手を、陽太くんがそっと優しく包み込んだ。

「変なんかじゃないよ。……すごく、可愛い」

「え…」

「学校の美月ちゃんもかっこよくて素敵だけど、今の美月ちゃん、世界一可愛い。俺、今の美月ちゃん、すごく好きだな」

陽太くんはトパーズ色の瞳を細めて、本当に愛おしそうに私を見つめて微笑んだ。

「す……、す、す……っ!?」

脳内が真っ白にフリーズする。
「好き」って、それどういう意味!? まだ付き合ってもいないのに、そんな顔で、そんなセリフを無自覚に言ってくるなんて、反則中の反則だ。

「……じゃあ、電池もらってくるね。おやすみ、美月ちゃん」

私の顔がリンゴみたいに真っ赤になっていることにも気づかず、陽太くんは満足そうに手を振ってリビングへと歩いていった。

パタン、とドアが閉まった瞬間、私は枕に顔を埋めて声を殺して絶叫した。

「無理無理無理! 心臓が破裂する……っ!!」

裏の世界を力でねじ伏せてきた最強の女総長が、一般人の男の子のたった一言で完全に致命傷を負わされている。
今日も、明日も、その先も。
私、この『太陽』みたいな男の子には――一生勝てる気がしない。