君の隣。 〜一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、出会って10年、ずっと私だけを思い続けてくれた「親友の元彼」でした〜

朝から、いつもより少しだけ気合いを入れて鏡に向かった。

時間をかけてセーラー服のリボンを整える。
昨夜、勇斗から電話越しに告げられた「第二ボタン、柚那に、もらってほしいんだ」というまっすぐな声が頭をよぎるたび、指先が小さく震えてリボンが歪んでしまう。
何度も結び直して綺麗に整えたあと、ほんのり色づくリップクリームをいつもより丁寧に唇に滑らせた。

鏡の中の私は、緊張しつつもどこか胸が高鳴るような、複雑な表情をしていた。
まだ自分に自信はないけれど。今日だけは、彼の『いちばん大切な人』という言葉にふさわしい私でいたかった。

自宅を後にすると、三月の風が少し冷たく頬を撫でた。けれどその中には、たしかに春のあたたかい匂いが混じっている。
いつもの場所で真美と合流し、並んで自転車を押して歩く。
何度も着て、何度も新太や勇斗と笑い、涙を吸い込んできたこのセーラー服に袖を通すのも、今日が最後だ。
生地は一年の頃よりずいぶんと体に柔らかく馴染んでいて、本当に高校生活が終わるのだという寂しさが、じわじわと胸の奥に広がっていった。

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体育館での厳粛な式典を終え、私たちは再び教室に戻る。
黒板には、誰かがチョークで書いた華やかな『卒業おめでとう』の文字が躍っていた。

教壇に立つ担任の先生が、最後のホームルームを始める。
いつもサバサバした関西弁でカラカラ笑っていた先生が、急に言葉を詰まらせ、無骨な手で涙を拭った。

「お前ら、本当によく頑張った。これから大変なこともあるやろうけど、自分を信じて進めよ」

クラス全員で色紙と大きな花束を贈ると、先生は照れくさそうに笑って、一人ひとりに卒業アルバムを手渡してくれた。

受け取る瞬間、先生とバチッと目が合う。
二年生のとき、新太や梨花との騒動で私がボロボロだった時に、そっとクラスを分けて守ってくれた先生。
(柚那、よく頑張ったな)
言葉はなくても、先生の温かい視線が私のすべてを肯定してくれているようで、目頭が熱くなった。

両手で受け取った分厚い卒業アルバムはずっしりと重く、まるで私がここで乗り越えてきた三年間そのもののような気がした。

教室のあちこちで、油性マジックのツンとした匂いが漂い始める。
アルバムをめくる音、響くシャッター音。
「寄せ書き書いて!」「写真撮ろう!」という、輝くような笑顔と賑やかな声。

「ねえ、他のクラスの子とも撮りに行こう!」
明里に腕を引っ張られ、私たちは賑やかな廊下に出て、他のクラスを回り始めた。

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1組の教室に入ると、そこには男女問わずたくさんのクラスメイトに囲まれて、楽しそうに笑う新太の姿があった。

私も1組の友人たちと順番に写真を撮り終え、ふと顔を上げたとき――。

不意に、新太とバッチリ目が合った。

周囲の喧騒が、一瞬にしてすうっと遠のいていくような気がした。

高校生活最後の日。
私は小さく息を吸い込み、上履きの底が床を擦るわずかな音だけを感じながら、彼に向かってゆっくりと足を踏み出した。