あの日から、新太とは一切連絡をとっていなかった。
年が明け、冬休みの終わりが近づいてきた頃。
三学期が始まる少し前の静かな午後に、ふと机の上に置いていたスマホが短く震えた。
静寂に包まれた自室に、無機質なバイブレーションの音が響く。
画面が明るくなり、そこに表示されたのは、新太からのメッセージだった。
『やっぱり、俺たち付き合うのとかはやめにしよう』
画面の向こうで、彼がどんな顔をしてこの文字を打ったのかはわからない。
けれど、そのたった一文を何度見つめ返しても、私の心には不思議なほど何も波立たなかった。
悲しみも、辛さも湧いてこない。心臓が跳ねるような動揺すら、欠片もなかった。
ただ、新太という人間に対して、ぽっかりと穴が開いたような淋しさだけが微かに残った。
きっと、彼の中に私に対する未練が全くなかったわけではないのだろう。
あの日、部屋を出ようとした私を呼び止めた彼の声には、自分の寂しさや欲望に流されてしまったことへの、微かな後悔が滲んでいたような気がする。
これ以上、こんな中途半端な自分に私を巻き込む資格はない。このメッセージはきっと、不器用な彼なりのけじめなのかもしれない。
私は光る画面を見つめながら、淡々とキーボードを叩いた。
『そうだね、わかった』
たった数文字。
送信ボタンを押す指先に、迷いは一切なかった。
既読がつくのを待つこともなく、スマホの画面を伏せて机の上に置く。
それにしても――。
冷静になって考えてみると、結局のところ、私たちはお互いに「もう一度付き合おう」と明言したわけでも、よりを戻したわけでもなかった。あの部屋で一度だけ、自分の気持ちに決着をつけるために、体温を確かめ合っただけだ。
それなのに、なぜか私の方が一方的に振られたような形になっている。
「なにそれ……」
呆れているわけでも、身勝手だと怒っているわけでもない。
ただ、なんだか私がおいてけぼりで振られたみたいな、その少しだけちぐはぐな状況に、私は思わず小さく苦笑してしまった。
あれほど新太の言葉一つに一喜一憂し、夜通し泣き、執着してボロボロになっていた頃が、まるで遠い昔の嘘のようだ。
「まあ、新太は新太で頑張って」
誰に聞かせるわけでもなく、心の中でそう呟いてみる。
すると、ずっと重くのしかかっていた胸のつかえがすっきりと取れたように、心がふっと軽くなった。
――けれど。
軽くなったはずの胸の奥に、じわりと、冷たくて重い自己嫌悪が広がっていく。
机の上に、画面を裏返して伏せられたまま、静かに沈黙しているスマートフォン。
その冷たい機械を見つめているだけで、私の脳裏には、あの日、まっすぐな告白を泣きながら断ってしまった私に、勇斗がくれた優しい言葉が鮮明に蘇ってくる。
『俺が好きで一緒にいたんだ。お前が謝ることじゃないだろ』
あんなに綺麗で、大切にされるべき彼の好意を、私は明里のためにと、泣きながら突っぱねてしまったのに。
なのに私は、新太への想いを確認するためだけに、あんなふうに自分を犠牲にするようにして体を重ねてしまった。
なんて身勝手で、狡くて、汚いんだろう。
(……私、どんな顔をして、もう一度勇斗に会えばいいの?)
傷つけて遠ざけてしまった彼の、あの綺麗すぎる優しさを思い出すたびに、胸が締め付けられるように痛む。
今の自分には、もう彼に触れる資格も、顔を合わせる資格すらないような気がして。
私は、裏返されたままのスマホを、さらに視界から消すようにベッドの隅へと押しやった。
暖房もつけないまま、すっかり冷え切った自室で深く息を吸い込む。
冷たい空気が、痛いくらいに肺を突き刺した。
窓の外から差し込む冬の陽射しは、新しく前を向こうとする私を、ただ静かに、少しだけ寂しげに見つめているようだった。
