私は、全てをわかっていた。
新太がクリスマスの前に連絡してきた理由も、ピアスを口実に私と会おうとしているその魂胆も。
クリスマス前に突然連絡してきたのは、きっと後輩の彼女と別れ、一人で過ごすイベントの寂しさに耐えられなかったから。結局、当日は会わなかったけれど、私と会おうとする目的も、痛いほど察していた。
「このことは誰にも相談しないで考えてほしい」という彼の一言も。もしこの話を私が誰かに打ち明ければ、みんなが間違いなく反対して、今の関係を否定するだろうって、彼自身、よく分かっていたから。
――全部、分かってた。
分かった上で、私はここに来た。
新太の下心に、都合よく流されたんじゃない。
自分の体を犠牲にしてでも、確かめたかった。
私の心の奥底に、まだ彼への『好き』が、ほんの少しでも残っているのかを。
もし、これでもう何も感じないのだとしたら。
傷だらけのこの恋を、今度こそ自分の手で、完全に殺すことができる。
本当に、ばかだと思う。 こんなことをしている自分が、救いようがないくらい愚かで、最低なことをしているのも、ちゃんと分かっている。
自傷行為のような、愚かで、あまりにも痛々しい賭け。
私はボロボロになる覚悟で、自分の体を使って、過去に冷たいピリオドを打ちにいった。
――……。
事を終えたあとの部屋には、どこか気まずく、ひどく静かな時間が流れていた。
私たちはほとんど会話を交わすこともなく、私は床に散らばった自分の服を拾い集め、淡々と静かに身支度を整えた。
鞄を手に取り、ドアへ向かおうとした時。
「……柚那」
背後から、ぽつりと名前を呼ばれた。
足を止め、振り返る。新太は私を見たまま、それに続く言葉を探すように微かに口ごもった。
怒っているわけでも、冷たく突き放したいわけでもない。ただ、彼から次の言葉が出てくる気配がなかったから。
「ピアス、ありがとね」
責めるでもなく、ごく自然な声でそう告げて、私は彼の部屋をあとにした。
帰りの電車に揺られながら、窓の外を流れる冬の夕暮れの景色を眺める。
行きと同じ道を戻っているだけなのに、目に映る街並みは全く違って見えた。少しずつ暗くなり始めた窓ガラスに映る自分の顔は、ひどく無表情だった。
悲しみはない。ただ、どうしようもないほどの『虚しさ』と、ぽっかりと胸に穴が空いたような『淋しさ』だけが心を支配していた。
どこかで少しだけ、新太に心が傾きかけているのだと、自分に思い込もうとしていた。肌を重ねれば、かつてのように胸が苦しくなるほど彼を愛おしく思う感情が蘇るのではないかと。
けれど、それは違った。
実際に彼を受け入れてみて、思いがけずハッキリとわかってしまった。
――ああ、これは、決して『好き』という感情ではない。
私が想像していたよりもずっと、私の中にある彼への想いが小さくなっていた。自分でも驚くほど、彼に対する熱が完全に失われていた。
あれほど新太とよりを戻したいと願い、彼に振り回されて泣いていた時期もあったのに。
あんなに彼を好きだった自分は、もうどこにもいない。
その残酷な事実に気づいてしまったことが、失恋するよりもずっと淋しかった。
その夜、新太から連絡が来ることはなかった。
私からも、スマホの画面に触れることはしなかった。
新太がクリスマスの前に連絡してきた理由も、ピアスを口実に私と会おうとしているその魂胆も。
クリスマス前に突然連絡してきたのは、きっと後輩の彼女と別れ、一人で過ごすイベントの寂しさに耐えられなかったから。結局、当日は会わなかったけれど、私と会おうとする目的も、痛いほど察していた。
「このことは誰にも相談しないで考えてほしい」という彼の一言も。もしこの話を私が誰かに打ち明ければ、みんなが間違いなく反対して、今の関係を否定するだろうって、彼自身、よく分かっていたから。
――全部、分かってた。
分かった上で、私はここに来た。
新太の下心に、都合よく流されたんじゃない。
自分の体を犠牲にしてでも、確かめたかった。
私の心の奥底に、まだ彼への『好き』が、ほんの少しでも残っているのかを。
もし、これでもう何も感じないのだとしたら。
傷だらけのこの恋を、今度こそ自分の手で、完全に殺すことができる。
本当に、ばかだと思う。 こんなことをしている自分が、救いようがないくらい愚かで、最低なことをしているのも、ちゃんと分かっている。
自傷行為のような、愚かで、あまりにも痛々しい賭け。
私はボロボロになる覚悟で、自分の体を使って、過去に冷たいピリオドを打ちにいった。
――……。
事を終えたあとの部屋には、どこか気まずく、ひどく静かな時間が流れていた。
私たちはほとんど会話を交わすこともなく、私は床に散らばった自分の服を拾い集め、淡々と静かに身支度を整えた。
鞄を手に取り、ドアへ向かおうとした時。
「……柚那」
背後から、ぽつりと名前を呼ばれた。
足を止め、振り返る。新太は私を見たまま、それに続く言葉を探すように微かに口ごもった。
怒っているわけでも、冷たく突き放したいわけでもない。ただ、彼から次の言葉が出てくる気配がなかったから。
「ピアス、ありがとね」
責めるでもなく、ごく自然な声でそう告げて、私は彼の部屋をあとにした。
帰りの電車に揺られながら、窓の外を流れる冬の夕暮れの景色を眺める。
行きと同じ道を戻っているだけなのに、目に映る街並みは全く違って見えた。少しずつ暗くなり始めた窓ガラスに映る自分の顔は、ひどく無表情だった。
悲しみはない。ただ、どうしようもないほどの『虚しさ』と、ぽっかりと胸に穴が空いたような『淋しさ』だけが心を支配していた。
どこかで少しだけ、新太に心が傾きかけているのだと、自分に思い込もうとしていた。肌を重ねれば、かつてのように胸が苦しくなるほど彼を愛おしく思う感情が蘇るのではないかと。
けれど、それは違った。
実際に彼を受け入れてみて、思いがけずハッキリとわかってしまった。
――ああ、これは、決して『好き』という感情ではない。
私が想像していたよりもずっと、私の中にある彼への想いが小さくなっていた。自分でも驚くほど、彼に対する熱が完全に失われていた。
あれほど新太とよりを戻したいと願い、彼に振り回されて泣いていた時期もあったのに。
あんなに彼を好きだった自分は、もうどこにもいない。
その残酷な事実に気づいてしまったことが、失恋するよりもずっと淋しかった。
その夜、新太から連絡が来ることはなかった。
私からも、スマホの画面に触れることはしなかった。
