君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

アイスを食べ終え、私たちは逃げるように店を後にした。

「このあとどうする? 夜景でも見に行く?」

機嫌よくそう提案する和也くんの声すら、今の私には苦痛だった。
一日中ずっと張り詰めていた無意識の緊張感と、先ほどのお店での言動への強烈な嫌悪感。これ以上、一秒たりとも一緒にいるのは無理だと思った。

「ごめんね、うち門限があって……もうそろそろ帰らなきゃ。また、近くのコンビニで降ろしてもらえるかな?」

私はとっさに嘘をついた。
実際には、そんな厳しい門限なんてない。ただ、自宅の正確な場所を和也くんに知られたくなかっただけだ。

コンビニの駐車場で車を降り、「今日はありがとう」と最低限の笑顔を貼り付けてドアを閉める。
彼の車が夜の街に消えていくのを見届けてから、私は張り詰めていた糸が切れたように深く息を吐き出した。

自宅に着き、ドッと押し寄せる泥のような疲労感とともにベッドに倒れ込む。
すぐにスマホが震え、和也くんからLINEが届いた。

『今日は楽しかった。またよかったら一緒に出かけよう』

画面に並ぶ文字を眺めても、何の感情も湧いてこない。
通知を消し、画面を伏せる。私の中で、もう彼と二度と会うことはないと、はっきりと心に決めていた。

翌朝。学校で明里に会うと、彼女は目を輝かせて駆け寄ってきた。

「おはよ! ねぇねぇ、昨日どうだったの?」

期待に満ちたその顔を見て、私は思わず肩を落しながら、昨日あったことのすべてを正直に話した。すると、明里はみるみるうちに眉をひそめた。

「うわぁ……それは引くね。一緒にいたくないって思うの、よくわかるよ。気乗りしなかったのって、なんとなくそういう『嫌な感じ』を無意識に察してたからじゃない?」
「たぶん。……もう会うことはないかな」
「そんなの、絶対に会わなくていいよ! 柚那が我慢する必要なんて1ミリもない!」

屈託のない笑顔でカラッと笑い飛ばしてくれる明里の言葉に、どんよりと重かった胸のつかえがすーっと軽くなっていくのが分かった。

そして、その日の夜のこと。

部屋で一人、お風呂上がりにベッドでくつろいでいると、スマホの画面が短く光った。

『勇斗』

画面に浮かんだその二文字を見た瞬間、ドクンと心臓が跳ね上がった。

『最近、男の人と一緒に出かけたんだって? 野球部のやつから聞いたよ』

直球すぎるメッセージに、一瞬息が止まる。
どこかで誤解されているんじゃないかという焦りが胸を走り、指先が強ばった。でも、彼に隠す理由なんて何一つない。私は縋るような思いで画面をタップした。

『そうなんだよ……! 連絡先聞かれて出かけることになったんだけど、それがもう最悪でさ……』

溜め込んでいた愚痴が一気に溢れ出し、和也くんの店員さんへの態度や、どうしても無理だった部分について、一から十まで画面に打ち込んだ。

送信してすぐに既読がつく。
勇斗は私の言葉を茶化すことも否定することもなく、最後まで聞いてくれた。

『もうそいつとは会う気ないんだろ? まあ、柚那が変な男に引っかからなくてよかったよ(笑)』
『柚那、嫌なことあっても我慢して顔に出さないからさ。気疲れしただろ、ゆっくり休めよ』

画面の向こうで、彼が優しく笑っている姿が鮮明に目に浮かぶ。

(……やっぱり、勇斗なんだよなぁ)

特別甘い言葉をかけられたわけじゃない。
それでも、誰よりも深く私という人間を理解し、一番欲しい言葉をくれる。

――どうしてこうも、勇斗は私の心を揺さぶってくるんだろう。

必死に見ないふりをして、やり過ごそうとしているのに。
彼とこうして言葉を交わすだけで、行き場のない思いが、どうしようもなく苦しく胸を締め付けるのだった。

『今度、口直しに俺が美味いもん奢ってやるよ』

ふいに画面に浮かび上がったその一文に、私の心臓はまた、大きく跳ねた。