無事に教習所の卒業検定に合格した私は、そのままの勢いで本免学科試験に臨み、一発で合格することができた。
手元にある真新しい免許証。
自分の顔写真と『普通』の二文字が並ぶプラスチックのカードを見るたびに、高校生活の終わりがまた一歩近づいたような気がして、胸の奥に小さな寂しさが広がっていく。
そんな、どこか地に足がつかないような日々を過ごしていた、ある日のことだった。
昼休み、自分の席で次の授業の教材を整理していると、同じクラスの野球部員がひょいと目の前にやってきた。
「下崎ー、和也って名前のやつ知ってるか? 自動車教習所で会ってると思うんだけど」
「……かずや?」
突然投げかけられた名前に、私は一瞬心当たりがなくて首を傾げた。
「知らないか? 知ってるはずなんだけどな……。そいつ、卒検で下崎と一緒になったって言ってたぞ。俺と同じ中学のやつなんだ」
『今日一緒に試験を受けていたものです』
そう言って、教習所のロビーで声をかけてくれた彼の顔が、その言葉で一気に記憶によみがえった。
「……あぁ! 和也くん! 思い出した。卒検が終わったあと、少し話した人だ。そっか、同じ中学だったんだね。……和也くんが、どうかしたの?」
「和也がさ、下崎の連絡先を知りたいんだって。LINE教えていい?」
「えっ」
思わず素の声が漏れた。
予想もしていなかった申し出に驚いて、一瞬まばたきを繰り返してしまう。
でも、教習所でまっすぐ声をかけてくれた印象もあるし、共通の知り合いもいる。断るような理由は特に思いつかなかった。
「あー、うん! 大丈夫だよ」
「お、了解。伝えとくわ!」
私は少しだけ照れくさい気持ちを隠しながら返事をし、連絡先を教えることを了承した。
その日の夜。
お風呂上がりに自室のベッドに寝転がっていると、机の上に置いていたスマホの画面が短く光り、ピコンと通知音が鳴った。
画面を覗き込む、ほんの一瞬。
(……勇斗?)
無意識のうちに彼の名前が頭をよぎってしまい、私は胸の奥で苦笑する。
期待しても意味がないと自分に言い聞かせているはずなのに、癖のように彼を探してしまう自分が少し嫌になる。
けれど、LINEのポップアップに表示されていたのは、見覚えのないアカウント名だった。
『初めまして! 連絡先教えてもらった和也だよ! いきなりごめんね!教習所で話して、もっと話してみたかったんだ』
画面に並ぶのは、気さくで勢いのある文字。
そのストレートで物怖じしない言葉に、胸のつかえが降りたような気がして、私は思わずふっと口元をほころばせた。
『こんばんは!無事に免許取れた?』と返信を打つと、すぐに既読がつき、彼も無事に学科試験を通過できたことが分かった。
それからというもの、私たちは毎日のようにLINEを交わすようになった。
教習所での出来事や、お互いの学校の話、最近聴いている音楽のこと。
卒検の日に感じた少しの引っかかりも忘れてしまうくらい、彼の返信はテンポが良く、気さくで話しやすかった。
まだ彼の性格を深く理解しているわけではないけれど、気を使わずにやり取りできる存在ができたのは、どこか心地よかった。
そんな他愛のない会話が続いていた、ある日の夕方。
『今度、運転の練習がてらドライブ行かない?』
画面に踊るその文字を見て、私は少しだけ手を止めた。
ドライブ。
男の子と二人で出かけるというシチュエーションに、一瞬だけ緊張が走る。
けれど、彼からのメッセージにはそれ以上の深い意味や下心のようなものは感じられず、あくまでフランクなトーンだった。
(運転の練習か……一人で乗るのはまだちょっと怖いし、ちょうどいいのかな)
特別に浮ついた期待をしているわけではない。
せっかく取った免許だし、同じ時期に運転を覚えた友達と一緒に練習できるならいい機会かもしれない。
「うん、行こう!」
そんな軽い気持ちで、私は画面の向こうの彼に承諾の返信を打った。
手元にある真新しい免許証。
自分の顔写真と『普通』の二文字が並ぶプラスチックのカードを見るたびに、高校生活の終わりがまた一歩近づいたような気がして、胸の奥に小さな寂しさが広がっていく。
そんな、どこか地に足がつかないような日々を過ごしていた、ある日のことだった。
昼休み、自分の席で次の授業の教材を整理していると、同じクラスの野球部員がひょいと目の前にやってきた。
「下崎ー、和也って名前のやつ知ってるか? 自動車教習所で会ってると思うんだけど」
「……かずや?」
突然投げかけられた名前に、私は一瞬心当たりがなくて首を傾げた。
「知らないか? 知ってるはずなんだけどな……。そいつ、卒検で下崎と一緒になったって言ってたぞ。俺と同じ中学のやつなんだ」
『今日一緒に試験を受けていたものです』
そう言って、教習所のロビーで声をかけてくれた彼の顔が、その言葉で一気に記憶によみがえった。
「……あぁ! 和也くん! 思い出した。卒検が終わったあと、少し話した人だ。そっか、同じ中学だったんだね。……和也くんが、どうかしたの?」
「和也がさ、下崎の連絡先を知りたいんだって。LINE教えていい?」
「えっ」
思わず素の声が漏れた。
予想もしていなかった申し出に驚いて、一瞬まばたきを繰り返してしまう。
でも、教習所でまっすぐ声をかけてくれた印象もあるし、共通の知り合いもいる。断るような理由は特に思いつかなかった。
「あー、うん! 大丈夫だよ」
「お、了解。伝えとくわ!」
私は少しだけ照れくさい気持ちを隠しながら返事をし、連絡先を教えることを了承した。
その日の夜。
お風呂上がりに自室のベッドに寝転がっていると、机の上に置いていたスマホの画面が短く光り、ピコンと通知音が鳴った。
画面を覗き込む、ほんの一瞬。
(……勇斗?)
無意識のうちに彼の名前が頭をよぎってしまい、私は胸の奥で苦笑する。
期待しても意味がないと自分に言い聞かせているはずなのに、癖のように彼を探してしまう自分が少し嫌になる。
けれど、LINEのポップアップに表示されていたのは、見覚えのないアカウント名だった。
『初めまして! 連絡先教えてもらった和也だよ! いきなりごめんね!教習所で話して、もっと話してみたかったんだ』
画面に並ぶのは、気さくで勢いのある文字。
そのストレートで物怖じしない言葉に、胸のつかえが降りたような気がして、私は思わずふっと口元をほころばせた。
『こんばんは!無事に免許取れた?』と返信を打つと、すぐに既読がつき、彼も無事に学科試験を通過できたことが分かった。
それからというもの、私たちは毎日のようにLINEを交わすようになった。
教習所での出来事や、お互いの学校の話、最近聴いている音楽のこと。
卒検の日に感じた少しの引っかかりも忘れてしまうくらい、彼の返信はテンポが良く、気さくで話しやすかった。
まだ彼の性格を深く理解しているわけではないけれど、気を使わずにやり取りできる存在ができたのは、どこか心地よかった。
そんな他愛のない会話が続いていた、ある日の夕方。
『今度、運転の練習がてらドライブ行かない?』
画面に踊るその文字を見て、私は少しだけ手を止めた。
ドライブ。
男の子と二人で出かけるというシチュエーションに、一瞬だけ緊張が走る。
けれど、彼からのメッセージにはそれ以上の深い意味や下心のようなものは感じられず、あくまでフランクなトーンだった。
(運転の練習か……一人で乗るのはまだちょっと怖いし、ちょうどいいのかな)
特別に浮ついた期待をしているわけではない。
せっかく取った免許だし、同じ時期に運転を覚えた友達と一緒に練習できるならいい機会かもしれない。
「うん、行こう!」
そんな軽い気持ちで、私は画面の向こうの彼に承諾の返信を打った。
