君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

いや、それは私の考えが甘かったんだ。

梨花は、最初からこんなことで負い目を感じるような人ではなかった。今、改めてそう思う。

初めて私に話しかけてきた時だってそうだった。新太と付き合っていることを知っていながら、わざと自分の存在を「彼女である私」に誇示するように近づいてきた。
彼女はいつも、そうやって図々しい態度で、平気で人の心を踏みつけてきたんだ。

悔しさと情けなさで視界が滲む。
夜道を歩きながら、気づけば無意識に、私は明里と勇斗にメッセージを打っていた。

画面に落ちる涙を拭いながら、今日バイト先で起きたことのすべてを叩きつける。
梨花が来たこと。無神経にオーダーを告げられたこと。
そして、「あんなやつ別れて正解だよ」と言われたこと。

送信ボタンを押した後も、指の震えは止まらなかった。

明里からの返信はすぐにはなかったけれど、しばらくして、握りしめていたスマートフォンの画面が明るく光った。

着信だ。……画面には、勇斗の名前が表示されていた。

「もしもし……」

「まーた泣いてる。今まだ帰り道? 一人なんだろ?」

耳元に響く、少し低くて落ち着いた声。
それを聞いた途端、必死にこらえていたものが決壊しそうになる。

「……うん」

「家に着くまで、電話しよ。暗いし危ないから」

それから、私は堰を切ったようにすべての気持ちを勇斗に打ち明けた。
梨花に言われた言葉の刃。無言で耐え切ったこと。本当はすごく悔しかったこと。途切れ途切れで、きっと上手く説明できていなかったと思う。

それでも彼は、「うん」「そっか」と、否定も肯定もせず、ただ私のまとまらない言葉をすべて静かに受け止めてくれた。
彼の相槌ひとつひとつが、冷え切った心にじんわりと染み込んでいく。

やがて、見慣れた自分の家の前に着く頃。勇斗は穏やかな声で言った。

「もう家に着く頃か? ……ちょっとは落ち着いたか?」

「うん。……聞いてくれて、ありがとう」

「またいつでも連絡しろよ。話聞くからさ」

そう言って、ふっと笑う気配を残して電話が切れた。
通話が終了して画面が暗くなったスマホを、両手で包み込むように持つ。

……また、彼の優しさに甘えてしまった。

ふと画面を点灯させると、明里からも心配するメッセージが何件も届いていた。

『大丈夫!? 今電話しようか?』

画面に並ぶ親友からの真っ直ぐな言葉に、胸の奥がさらにじんわりと温かくなる。
勇斗の不器用な優しさと、明里の温かい思いやり。
二人のおかげで、私の冷え切っていた心はしっかりと温度を取り戻していた。

私は小さく息を吐き、親友である彼女にも今の少し落ち着いた気持ちを聞いてもらうべく、ゆっくりと文字を打ち始めた。