勇斗を見送った後。
リビングへ戻ると、お母さんが「勇斗くん、礼儀正しくて本当に良い子ね。またいつでもおいでって伝えてね」と、すっかり彼を気に入った様子で嬉しそうに話していた。
珍しくお父さんも「あぁ、しっかりした男だな」と満足そうに頷いている。
あんなに人見知りなお父さんが、あんなに楽しそうに笑うなんて。
勇斗は持ち前の人懐っこさで、あっという間に私の家族の中に溶け込んでしまった。
両親と交わしたそんな会話の温かい余韻を背中に感じながら、私はお風呂を済ませて自分の部屋へと戻った。
パタンとドアを閉めると、一気に静まり返った空間。
電気もつけないまま、暗い部屋のベッドに仰向けに倒れ込み、ぼんやりと天井を見つめる。
さっき玄関先で必死に閉じたはずの想いが、一人になった途端、また大きな波のように何度も押し寄せては私の胸を甘く揺さぶる。
お父さんにお酌をして笑っていた彼の横顔。私の家族の中に彼が自然に存在していた光景が、まぶたの裏に浮かんでは消えていく。
その温かい余韻に浸るたび、重くしたはずの蓋がいとも簡単に外れてしまいそうになった。
(ダメ……明里の笑顔を奪うことなんて、私には絶対にできない)
私は自分自身を強く戒めるようにぎゅっと目を閉じ、ふぅっと小さく息を吐き出した。
親友を裏切って二人の間に入るなんて、許されるはずがないのだから。想像するだけで恐ろしくて、とてもその先に足を踏み出す勇気なんて出なかった。
ブブッ。
静かな部屋に、スマホの短いバイブ音が低く響いた。
暗闇の中で画面がパッと明るく光り、通知が表示される。
『今日はごちそうさま!柚那のご両親にもよろしく。おやすみ』
勇斗からの短いLINE。
画面に浮かぶ『おやすみ』のたった四文字を見るだけで、胸の奥がギュッと甘く痛む。
(いつも通りにしなきゃ……)
私は痛む胸を必死で押さえつけながら、フリーズしかけた指先を動かした。
文字を入力しては消し、また打ち直す。いつも通りのトーンを意識して『こちらこそありがとう!また明日ね、おやすみ』と打ち込み、迷った末に一番明るくて可愛らしいスタンプを添えて送信ボタンを押した。
彼からのメッセージに胸を躍らせてしまう愚かな感情を、誰にも悟られないようにどうにかして奥底へと押し込む。
私にできるのは、ただ一つ。
この大きくなってしまった『好き』という気持ちに、今度こそ完全に鍵をかけて、このまま「友達」でいようと決めること。
勇斗のことが、好き。
でも、この気持ちは一生、誰にも言えない秘密にしなければならない。
私はスマホの画面を裏返して手放すと、暗闇の中で静かに目を閉じた。
痛くて、甘くて、どうしようもなく切ない恋心を、胸の奥深くにギュッとしまい込んだ。
リビングへ戻ると、お母さんが「勇斗くん、礼儀正しくて本当に良い子ね。またいつでもおいでって伝えてね」と、すっかり彼を気に入った様子で嬉しそうに話していた。
珍しくお父さんも「あぁ、しっかりした男だな」と満足そうに頷いている。
あんなに人見知りなお父さんが、あんなに楽しそうに笑うなんて。
勇斗は持ち前の人懐っこさで、あっという間に私の家族の中に溶け込んでしまった。
両親と交わしたそんな会話の温かい余韻を背中に感じながら、私はお風呂を済ませて自分の部屋へと戻った。
パタンとドアを閉めると、一気に静まり返った空間。
電気もつけないまま、暗い部屋のベッドに仰向けに倒れ込み、ぼんやりと天井を見つめる。
さっき玄関先で必死に閉じたはずの想いが、一人になった途端、また大きな波のように何度も押し寄せては私の胸を甘く揺さぶる。
お父さんにお酌をして笑っていた彼の横顔。私の家族の中に彼が自然に存在していた光景が、まぶたの裏に浮かんでは消えていく。
その温かい余韻に浸るたび、重くしたはずの蓋がいとも簡単に外れてしまいそうになった。
(ダメ……明里の笑顔を奪うことなんて、私には絶対にできない)
私は自分自身を強く戒めるようにぎゅっと目を閉じ、ふぅっと小さく息を吐き出した。
親友を裏切って二人の間に入るなんて、許されるはずがないのだから。想像するだけで恐ろしくて、とてもその先に足を踏み出す勇気なんて出なかった。
ブブッ。
静かな部屋に、スマホの短いバイブ音が低く響いた。
暗闇の中で画面がパッと明るく光り、通知が表示される。
『今日はごちそうさま!柚那のご両親にもよろしく。おやすみ』
勇斗からの短いLINE。
画面に浮かぶ『おやすみ』のたった四文字を見るだけで、胸の奥がギュッと甘く痛む。
(いつも通りにしなきゃ……)
私は痛む胸を必死で押さえつけながら、フリーズしかけた指先を動かした。
文字を入力しては消し、また打ち直す。いつも通りのトーンを意識して『こちらこそありがとう!また明日ね、おやすみ』と打ち込み、迷った末に一番明るくて可愛らしいスタンプを添えて送信ボタンを押した。
彼からのメッセージに胸を躍らせてしまう愚かな感情を、誰にも悟られないようにどうにかして奥底へと押し込む。
私にできるのは、ただ一つ。
この大きくなってしまった『好き』という気持ちに、今度こそ完全に鍵をかけて、このまま「友達」でいようと決めること。
勇斗のことが、好き。
でも、この気持ちは一生、誰にも言えない秘密にしなければならない。
私はスマホの画面を裏返して手放すと、暗闇の中で静かに目を閉じた。
痛くて、甘くて、どうしようもなく切ない恋心を、胸の奥深くにギュッとしまい込んだ。
