君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

あの階段での出来事以来、私は勇斗のことを極力考えないようにしていた。
彼からのLINEにもなるべく淡々と返すようにして、自分の中に芽生えそうになった気持ちに必死で蓋をする。

――勇斗は、明里の元カレ。

その事実を呪文のように頭の中で繰り返し、自分に言い聞かせながら過ごしていた。

そんなある日、部活を終えて駐輪場にいた時のこと。
季節は少しずつ夏に近づいているとはいえ、部活終わりの時間はもうすっかり日が落ちていた。薄暗い駐輪場で自分の自転車を引き出していると、背後からふいに声がした。

「今から帰り?」

ドキッとして振り返ると、そこには部活終わりの勇斗の姿があった。
見ないようにしていたはずなのに、少し着崩した制服姿を捉えた瞬間、やっぱり心臓がトクンと跳ねてしまう。

「うん」

動揺を悟られないように短く答えると、彼は私の周りをぐるりと見渡して、不思議そうに尋ねてきた。

「あれ、真美と明里は?」
「真美は彼氏と帰る約束をしていて、明里は家の用事で今日は部活お休みなんだよね」

私がその旨を伝えると、勇斗の表情がスッと真剣なものに変わった。

「柚那、ひとりなの?」
「うん、そうだけど……」

答えた瞬間、勇斗は「ちょっと待ってて」と言い残し、駐輪場の入口でたむろしていた野球部のメンバーのもとへ小走りで向かっていった。
何を話し込んでいるのだろうと遠巻きに見ていると、勇斗が仲間たちに向かって「俺、先帰るわ!」と声をかけているのが聞こえた。

やがて、私の元へ駆け足で戻ってきた勇斗は、まっすぐに私の目を見て言った。

「家まで送るよ。一緒に帰ろ」

その甘い響きに、心臓が大きく跳ね上がる。
でも、ダメだ。私はとっさに首を横に振った。

「えっ、いいよ! 家、真逆の方向じゃん。勇斗だって練習で疲れてるのに、帰りが遅くなっちゃうから……」

それに、今の私が彼と二人きりで夜道を歩くなんて、絶対にダメだ。自分にかけているブレーキが壊れてしまうかもしれない。
必死に断る理由を並べ立てたけれど、彼は決して譲ろうとはしなかった。

「もう暗いし、こんな時間にひとりで帰らせるなんて心配だから。……送らせてよ」

それは、いつもの友達に向けるようなトーンではなく、どうしようもなく甘くて、真剣な声音だった。
正面から見つめられ、その真っ直ぐな眼差しに絡め取られるように、私はもう一度断る言葉を飲み込んでしまう。

「……わかった。ごめんね、ありがとう」

結局、その真剣な眼差しに押し切られる形で、私は勇斗に家まで送ってもらうことになった。

学校を出て、夜の静寂に包まれた通学路。
私たちは自転車にまたがるのではなく、それぞれの自転車を押しながら並んで歩いていた。
乗って帰ればすぐに着いてしまう距離を、あえてこうして歩いている。その事実だけで、胸の奥がギュッと締め付けられるような、甘い焦れったさが広がっていくのだった。