君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

あの帰り道から数日後。
結局、明里と勇斗は別れることになった。

別れを切り出したのは、勇斗の気持ちが離れていると知りながらも、必死に彼を繋ぎ止めていた明里の方からだったという。

「私から振ってやったんだから!」と、いつも通りに明るく笑って報告してくれた明里の顔を思い出すと、今でも胸が締め付けられる。
明るく振る舞う彼女の目は少しだけ赤く腫れていて、無理に作られた笑顔だとすぐにわかった。
強がっていても、その笑顔の裏で彼女がどれだけ泣いて、どれだけ苦しい決断をしたのか、痛いほど想像がついたからだ。

二人が別れてすぐ、自室のベッドでぼんやりとしていた私のスマホが短く震えた。画面を見ると、勇斗からの一通のLINEだった。

『明里から聞いてるかもしれないけど、俺たち別れたよ。明里に対しての気持ちがわからなくなったんだ。今までいろいろ話を聞いてくれてありがとな』

いつも通りの、どこか誠実さが滲む短い文章。
私は光るスマホの画面を見つめたまま、ゆっくりと深呼吸をした。

『明里から聞いてたよ。二人が納得して決めたことなら、これでよかったんだと思う。お互い前に進めるといいね。私の方こそ、勇斗には支えてもらってばっかりだったよ。ありがとね』

何度も文字を打っては消し、慎重に言葉を選んで送信ボタンを押す。
既読がつくのを待たずに、私はスマホをベッドの隅に放り投げ、天井を見上げた。

二人が別れてしまったことは、正直、少しだけ悲しかった。
私が辛い時に助けてくれたように、二人はこれからもずっとお互いを支え合っていくのだと、勝手にそう思い込んでいたから。

けれど、明里は彼女なりに、勇斗は彼なりに、誤魔化さずに今の関係と真剣に向き合った末の答えなのだ。
他人の私がこれ以上入り込む隙間なんてないし、口出しすべきことでもない。
二人が別々の道を歩き始めたという事実だけが、静かにそこに残った。

やがて季節は巡り、凍えるように冷たかった風の中に、少しずつ春の匂いが混じり始める。

今日は2年生最後の登校日。
ホームルームが終わり、クラスメイトたちが賑やかに荷物をまとめている。黒板には誰かが書いた『一年間ありがとう』の文字。壁に貼られていた時間割や当番表も剥がされ、教室はどこか少しだけ広く、そして寂しく見えた。

私は空っぽになった自分のロッカーを静かに見つめていた。

思えば、この一年は本当に色々なことがあった。
新太との泥沼の別れから始まり、梨花からの容赦ない嫌がらせに心身ともにすり減らし、絶望的な日々を送った時期もあった。
そして最後は、私を支えてくれた勇斗と明里の決別。

泣いてばかりいた日々を思い返すと、胸の奥が少しだけズキリと痛む。
色々なことがありすぎて、あれほど長く苦しく感じた高校2年生という一年も、こうして静かに終わりを迎えようとしていた。

帰り道。
冷たい風が頬を撫でるけれど、その中に確かな春の温もりを感じる。
ふと見上げた校庭の桜の木には、小さな蕾がいくつも膨らみ始めていた。

その健気な姿をぼんやりと眺めながら、私はこれから始まる新しい日々に向けて、ただ静かに、深く息を吐き出した。