駄菓子屋での一件以降も、学校では梨花からのあからさまな見せつけが続いていた。
けれど、勇斗のあの広い背中と不器用な優しさを思い出すと、不思議と少しだけ耐えられる気がした。
私はひたすら無表情を貫き、逃げるような態度は見せないよう、なんとかやり過ごしていた。
ーーーーーーーーーー
季節は進み、吐く息も白くなる12月。
街中がイルミネーションで鮮やかに彩られ、どこか浮き足立つこの季節。私はバイトのシフトに、あえてクリスマスの時期を詰め込んでいた。
今年は彼氏もいないし、一人で過ごして余計なことを考えるくらいなら、忙しく働いて気を紛らわせたかったのだ。
クリスマスまであと数日と迫った、ある日のこと。
オープン前の準備中、レジの横でふと12月の予約台帳を確認していたときだった。
「……え?」
25日のクリスマスのページ。
そこに並ぶ2名での予約客のリストの中に、ある名前を見つけて、ドクンと心臓が大きく跳ね上がった。全身の血の気がスッと引いていくのがわかる。
『下崎 様』
そう記されていたからだ。
下崎。それは私の苗字であり、そして……新太の苗字でもある。
付き合っていた頃、「将来結婚しても、柚那は苗字変わらなくて楽だね」なんて、二人で笑い合ったこともあった。あんなに特別で嬉しかった共通点が、今はこんなにも恐ろしい。
私は嫌な胸騒ぎを抱え、ホールを拭き掃除していた明里を呼び寄せ、震える指で台帳を指さした。
「ねえ、明里……これ、どう思う? 下崎なんて苗字、この辺りじゃそんなにいないと思うんだけど……あり得るかな?」
明里は予約帳を覗き込み、一瞬で表情を険しくした。
「まさか……。いくらなんでも、そこまでして来る? 柚那と新太の苗字が偶然一緒っていうことだけでもびっくりだったのに、クリスマスの日に、柚那と同じ苗字の人が予約する確率なんて……」
明里は少し考えてから、キッと顔を上げた。
「とりあえず店長に言って、当日この人たちのテーブルの担当にならないように調整してもらおう。もし本当にあいつらだったら最悪すぎる。柚那が傷つく必要なんてないよ」
店長には、以前から少し恋愛相談に乗ってもらっていたこともあり、私は事情を正直に説明した。
店長は事情を察してくれ、「任せとけ。柚那の担当からはなるべく遠い席にするから」と、快く担当の調整を承諾してくれた。
本当に助かったと胸をなでおろす一方で、心臓の嫌なざわめきは止まらない。
もし本当にあの二人だったら、一体どういうつもりで予約をしたんだろう。
新太は私がここでバイトをしていることを知っている。そして当然、今の彼女である梨花も知っているはずだ。わざわざ元カノが働く店に、クリスマスという特別な日に新しい彼女を連れてくるなんて、常軌を逸している。
あの勝ち誇ったような梨花の視線が脳裏にフラッシュバックして、吐き気がした。
(……いや、きっと違う人たちだろう。ただの偶然だ)
私はそう自分に言い聞かせて、胸の奥に広がる黒い不安を必死に打ち消そうとした。
けれど、予約帳に書かれた『下崎』という文字が、呪いのように私の目に焼き付いて離れなかった。
けれど、勇斗のあの広い背中と不器用な優しさを思い出すと、不思議と少しだけ耐えられる気がした。
私はひたすら無表情を貫き、逃げるような態度は見せないよう、なんとかやり過ごしていた。
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季節は進み、吐く息も白くなる12月。
街中がイルミネーションで鮮やかに彩られ、どこか浮き足立つこの季節。私はバイトのシフトに、あえてクリスマスの時期を詰め込んでいた。
今年は彼氏もいないし、一人で過ごして余計なことを考えるくらいなら、忙しく働いて気を紛らわせたかったのだ。
クリスマスまであと数日と迫った、ある日のこと。
オープン前の準備中、レジの横でふと12月の予約台帳を確認していたときだった。
「……え?」
25日のクリスマスのページ。
そこに並ぶ2名での予約客のリストの中に、ある名前を見つけて、ドクンと心臓が大きく跳ね上がった。全身の血の気がスッと引いていくのがわかる。
『下崎 様』
そう記されていたからだ。
下崎。それは私の苗字であり、そして……新太の苗字でもある。
付き合っていた頃、「将来結婚しても、柚那は苗字変わらなくて楽だね」なんて、二人で笑い合ったこともあった。あんなに特別で嬉しかった共通点が、今はこんなにも恐ろしい。
私は嫌な胸騒ぎを抱え、ホールを拭き掃除していた明里を呼び寄せ、震える指で台帳を指さした。
「ねえ、明里……これ、どう思う? 下崎なんて苗字、この辺りじゃそんなにいないと思うんだけど……あり得るかな?」
明里は予約帳を覗き込み、一瞬で表情を険しくした。
「まさか……。いくらなんでも、そこまでして来る? 柚那と新太の苗字が偶然一緒っていうことだけでもびっくりだったのに、クリスマスの日に、柚那と同じ苗字の人が予約する確率なんて……」
明里は少し考えてから、キッと顔を上げた。
「とりあえず店長に言って、当日この人たちのテーブルの担当にならないように調整してもらおう。もし本当にあいつらだったら最悪すぎる。柚那が傷つく必要なんてないよ」
店長には、以前から少し恋愛相談に乗ってもらっていたこともあり、私は事情を正直に説明した。
店長は事情を察してくれ、「任せとけ。柚那の担当からはなるべく遠い席にするから」と、快く担当の調整を承諾してくれた。
本当に助かったと胸をなでおろす一方で、心臓の嫌なざわめきは止まらない。
もし本当にあの二人だったら、一体どういうつもりで予約をしたんだろう。
新太は私がここでバイトをしていることを知っている。そして当然、今の彼女である梨花も知っているはずだ。わざわざ元カノが働く店に、クリスマスという特別な日に新しい彼女を連れてくるなんて、常軌を逸している。
あの勝ち誇ったような梨花の視線が脳裏にフラッシュバックして、吐き気がした。
(……いや、きっと違う人たちだろう。ただの偶然だ)
私はそう自分に言い聞かせて、胸の奥に広がる黒い不安を必死に打ち消そうとした。
けれど、予約帳に書かれた『下崎』という文字が、呪いのように私の目に焼き付いて離れなかった。
