ある日の部活終わりのこと。
学校から少し歩いた先にある、昔ながらの小さな駄菓子屋。
部活終わりの生徒たちが寄り道をして、おばちゃんとお喋りしたり、店先のベンチでジュースを飲んだりする、私たちの溜まり場のような場所だ。
久しぶりに明里と真美と一緒に寄り道をした私は、他愛のない話で笑い合っていた。
ここ数日の息が詰まるような学校生活の空気を、仲間といるこの時間だけは忘れられる気がした。
「あ、勇斗! こっちこっち!」
明里がパッと顔を輝かせて、店にやってきた背の高い人影に手を振った。
部活終わりのスポーツバッグを肩にかけた勇斗だった。
「おう」
勇斗は短く返事をして、私たちのいるベンチへと歩いてくる。
明里は「今日部活遅かったね、お疲れ様!」と、いつものように嬉しそうな声で笑いかけた。
その時だった。
「あ、新太! あそこのベンチ空いてるよ」
楽しかった空気を一瞬で凍りつかせる、甲高く甘ったるい声。
声のした方を振り向くと、新太の腕にベッタリと抱きついた梨花が立っていた。
梨花は店先にいる私に気づくと、一瞬だけピタリと足を止め、口角をニィッと吊り上げた。
「新太なんか買うー? 今日すごい寒いし、あったかいの買って半分こしよー?」
周囲の目なんて気にもせず、わざと大きな声で新太にすり寄る。
新太は私の方をチラッと見て気まずそうに顔を伏せ、「……、う、うん」と焦ったように急かすけれど、梨花は絶対に離れようとしない。
あの廊下でのキスの記憶がフラッシュバックして、心臓が嫌な音を立てた。
足元から這い上がってくるドロドロとした黒い感情に、息ができなくなる。また、心がえぐられる。
俯いて目を逸らそうとした、その時だった。
スッ、と。
私の目の前に、大きな影が落ちた。
「これ、買ってきたんだけど食う? あったまるぞ」
低い声とともに勇斗が私と明里たちの前に立ちふさがり、紙袋からほかほかのコロッケを取り出して渡してくれた。
勇斗の広い背中が壁になり、私の視界から、新太と梨花の姿が綺麗に遮断される。
私が泣いていたあの時、周囲の目から私を隠してくれたのと同じ。
彼の広く頼もしい背中が、また私を嫌な現実から守ってくれたのだ。
「えっ……あ、ありがとう」
突然のことに驚きながらも、コロッケの温かさと、勇斗のさりげない行動に、私は思わず息をついた。
「ちょっと勇斗! さすが気が利くじゃん!」
「お前ら寒そうだったからな」
明里が冗談めかして笑いながらコロッケを受け取る。
そのやり取りをしているうちに、背後で気まずさに耐えきれなくなったのか、新太に促されるまま梨花がそそくさとその場を離れていく気配がした。
視界を遮って私を守ってくれた勇斗の不器用な優しさと、いつも通りに笑い合う二人の姿。
私は、さっきまでの息苦しさが嘘のように引いていくのを感じながら、湯気の立つコロッケをそっと口に運んだ。
学校から少し歩いた先にある、昔ながらの小さな駄菓子屋。
部活終わりの生徒たちが寄り道をして、おばちゃんとお喋りしたり、店先のベンチでジュースを飲んだりする、私たちの溜まり場のような場所だ。
久しぶりに明里と真美と一緒に寄り道をした私は、他愛のない話で笑い合っていた。
ここ数日の息が詰まるような学校生活の空気を、仲間といるこの時間だけは忘れられる気がした。
「あ、勇斗! こっちこっち!」
明里がパッと顔を輝かせて、店にやってきた背の高い人影に手を振った。
部活終わりのスポーツバッグを肩にかけた勇斗だった。
「おう」
勇斗は短く返事をして、私たちのいるベンチへと歩いてくる。
明里は「今日部活遅かったね、お疲れ様!」と、いつものように嬉しそうな声で笑いかけた。
その時だった。
「あ、新太! あそこのベンチ空いてるよ」
楽しかった空気を一瞬で凍りつかせる、甲高く甘ったるい声。
声のした方を振り向くと、新太の腕にベッタリと抱きついた梨花が立っていた。
梨花は店先にいる私に気づくと、一瞬だけピタリと足を止め、口角をニィッと吊り上げた。
「新太なんか買うー? 今日すごい寒いし、あったかいの買って半分こしよー?」
周囲の目なんて気にもせず、わざと大きな声で新太にすり寄る。
新太は私の方をチラッと見て気まずそうに顔を伏せ、「……、う、うん」と焦ったように急かすけれど、梨花は絶対に離れようとしない。
あの廊下でのキスの記憶がフラッシュバックして、心臓が嫌な音を立てた。
足元から這い上がってくるドロドロとした黒い感情に、息ができなくなる。また、心がえぐられる。
俯いて目を逸らそうとした、その時だった。
スッ、と。
私の目の前に、大きな影が落ちた。
「これ、買ってきたんだけど食う? あったまるぞ」
低い声とともに勇斗が私と明里たちの前に立ちふさがり、紙袋からほかほかのコロッケを取り出して渡してくれた。
勇斗の広い背中が壁になり、私の視界から、新太と梨花の姿が綺麗に遮断される。
私が泣いていたあの時、周囲の目から私を隠してくれたのと同じ。
彼の広く頼もしい背中が、また私を嫌な現実から守ってくれたのだ。
「えっ……あ、ありがとう」
突然のことに驚きながらも、コロッケの温かさと、勇斗のさりげない行動に、私は思わず息をついた。
「ちょっと勇斗! さすが気が利くじゃん!」
「お前ら寒そうだったからな」
明里が冗談めかして笑いながらコロッケを受け取る。
そのやり取りをしているうちに、背後で気まずさに耐えきれなくなったのか、新太に促されるまま梨花がそそくさとその場を離れていく気配がした。
視界を遮って私を守ってくれた勇斗の不器用な優しさと、いつも通りに笑い合う二人の姿。
私は、さっきまでの息苦しさが嘘のように引いていくのを感じながら、湯気の立つコロッケをそっと口に運んだ。
