新太とLINEをした数日後。
教室で次の移動教室の準備をしていると、背後から不意に名前を呼ばれた。
「柚那! 久しぶりだね。ちょっと、今話せる?」
振り返ると、そこに立っていたのは遥だった。
一年生の時、同じクラスになって一番最初に友達になった子。パッと花が咲いたような、ひまわりみたいに眩しい笑顔が印象的な女の子だ。
最近はクラスが離れて少し距離ができていたけれど、彼女の顔を見た瞬間、私の心臓が小さく跳ねた。
遥は、あの梨花とも仲が良いグループの子だ。
私は無意識のうちに身構えながら、ノートを抱える手に力を込めた。
「うん、大丈夫だけど……どうしたの?」
遥は周囲を気にするように声を落とし、私の席に一歩近づいた。
「あのね……。最近、新太くんと別れたんだよね? ごめんね、突然こんなこと聞いて。風の噂で、みんなが話してるのを聞いちゃって……」
「ううん、大丈夫だよ」
引きつりそうな笑みを浮かべて答える。やはり、私たちが別れたことは、もう学内中に知れ渡っているのだ。
「うん……。それでね、少し前に梨花から直接聞いた話なんだけど……どうしても柚那に伝えておかなきゃいけないと思って」
遥の真剣で、どこか怯えるような瞳を見て、私はごくりと唾を飲み込んだ。全身の血がすっと引いていくような嫌な予感がした。
「実はね……梨花が『新太くんと付き合ってる』って、すごく嬉しそうに自慢してたの」
遥の口から出た言葉に、胸がドクンと嫌な脈を打った。
やっぱり、あの二人は付き合っているんだ。分かっていたはずなのに、直接言葉にされると目の前が暗くなる。
けれど、遥の話はそれだけでは終わらなかった。
「梨花、柚那と新太くんが付き合っている頃から、ずっと新太くんのことを狙ってたんだって。どうしても自分のものにしたくて、新太くんの好きなタイプとか、柚那とどういう付き合い方をしてるのかを、周囲から細かく聞き出してたらしいの」
「……え?」
「二人が喧嘩してるっていう情報も、全部筒抜けだったみたい。逆に、柚那たちが仲良くしてるときは、梨花、悔しくて泣くほど嫉妬してたんだって……」
頭がクラクラした。
私と新太がすれ違い、悩んでいたあの苦しい時間。それすらも、梨花にとっては「付け入る隙」として、冷酷に計算されていたというのか。
「それでね……梨花、こう言ってたの」
遥は言いにくそうに視線を泳がせながらも、意を決したように私を見つめた。
「『柚那と別れる前から付き合うことになってしまったけれど、でもこうして付き合えたから嬉しい』って」
心臓がどしゃりと音を立てて崩れ落ちたような衝撃が走る。
……別れる前から、付き合うことになった?
じゃあ、新太が急に冷たくなったのも全部……。
私と別れる前から、二人の関係は始まっていたのだ。
「私、それを聞いてびっくりしちゃって……。梨花に『柚那とはそこまで仲が良かったわけじゃないかもしれないけど、付き合っていること、けじめとしてちゃんと柚那に言わなくていいの?』って聞いたんだよね。そしたら梨花、『言わなきゃなとは思ってるんだけどね……』って、答えてて……」
遥の話は、もう私の耳に半分も入っていなかった。
私と新太が別れた原因。新太が豹変した理由。
その生々しい真実が、一度に目の前に突きつけられて、呼吸の仕方を忘れてしまいそうだった。
けれど、遥が語った最後の事実が、私を完全に奈落の底へと突き落とした。
「それでね、私、ずっと気になってたから梨花に聞いたの。『新太くんの情報とか、柚那たちのこと、誰から聞いてたの?』って」
「そしたら、梨花はこう言ったんだよ」
「……誰、から?」
掠れた声で、どうにか問いかける。
遥は、とても辛そうな、けれど確信に満ちた声で、その名前を口にした。
教室で次の移動教室の準備をしていると、背後から不意に名前を呼ばれた。
「柚那! 久しぶりだね。ちょっと、今話せる?」
振り返ると、そこに立っていたのは遥だった。
一年生の時、同じクラスになって一番最初に友達になった子。パッと花が咲いたような、ひまわりみたいに眩しい笑顔が印象的な女の子だ。
最近はクラスが離れて少し距離ができていたけれど、彼女の顔を見た瞬間、私の心臓が小さく跳ねた。
遥は、あの梨花とも仲が良いグループの子だ。
私は無意識のうちに身構えながら、ノートを抱える手に力を込めた。
「うん、大丈夫だけど……どうしたの?」
遥は周囲を気にするように声を落とし、私の席に一歩近づいた。
「あのね……。最近、新太くんと別れたんだよね? ごめんね、突然こんなこと聞いて。風の噂で、みんなが話してるのを聞いちゃって……」
「ううん、大丈夫だよ」
引きつりそうな笑みを浮かべて答える。やはり、私たちが別れたことは、もう学内中に知れ渡っているのだ。
「うん……。それでね、少し前に梨花から直接聞いた話なんだけど……どうしても柚那に伝えておかなきゃいけないと思って」
遥の真剣で、どこか怯えるような瞳を見て、私はごくりと唾を飲み込んだ。全身の血がすっと引いていくような嫌な予感がした。
「実はね……梨花が『新太くんと付き合ってる』って、すごく嬉しそうに自慢してたの」
遥の口から出た言葉に、胸がドクンと嫌な脈を打った。
やっぱり、あの二人は付き合っているんだ。分かっていたはずなのに、直接言葉にされると目の前が暗くなる。
けれど、遥の話はそれだけでは終わらなかった。
「梨花、柚那と新太くんが付き合っている頃から、ずっと新太くんのことを狙ってたんだって。どうしても自分のものにしたくて、新太くんの好きなタイプとか、柚那とどういう付き合い方をしてるのかを、周囲から細かく聞き出してたらしいの」
「……え?」
「二人が喧嘩してるっていう情報も、全部筒抜けだったみたい。逆に、柚那たちが仲良くしてるときは、梨花、悔しくて泣くほど嫉妬してたんだって……」
頭がクラクラした。
私と新太がすれ違い、悩んでいたあの苦しい時間。それすらも、梨花にとっては「付け入る隙」として、冷酷に計算されていたというのか。
「それでね……梨花、こう言ってたの」
遥は言いにくそうに視線を泳がせながらも、意を決したように私を見つめた。
「『柚那と別れる前から付き合うことになってしまったけれど、でもこうして付き合えたから嬉しい』って」
心臓がどしゃりと音を立てて崩れ落ちたような衝撃が走る。
……別れる前から、付き合うことになった?
じゃあ、新太が急に冷たくなったのも全部……。
私と別れる前から、二人の関係は始まっていたのだ。
「私、それを聞いてびっくりしちゃって……。梨花に『柚那とはそこまで仲が良かったわけじゃないかもしれないけど、付き合っていること、けじめとしてちゃんと柚那に言わなくていいの?』って聞いたんだよね。そしたら梨花、『言わなきゃなとは思ってるんだけどね……』って、答えてて……」
遥の話は、もう私の耳に半分も入っていなかった。
私と新太が別れた原因。新太が豹変した理由。
その生々しい真実が、一度に目の前に突きつけられて、呼吸の仕方を忘れてしまいそうだった。
けれど、遥が語った最後の事実が、私を完全に奈落の底へと突き落とした。
「それでね、私、ずっと気になってたから梨花に聞いたの。『新太くんの情報とか、柚那たちのこと、誰から聞いてたの?』って」
「そしたら、梨花はこう言ったんだよ」
「……誰、から?」
掠れた声で、どうにか問いかける。
遥は、とても辛そうな、けれど確信に満ちた声で、その名前を口にした。
