部屋に入ると、私は電気もつけないままベッドに倒れ込んだ。
暗闇の中、微かに震える指先で、明里と勇斗にだけLINEを送った。
((わたしたち別れたよ))
((わたしはまだ……諦められなかった))
送信ボタンを押した直後、スマホの液晶画面が涙で大きく歪んで見えなくなった。
すぐに、明里からの返信のバイブレーションが響く。
((そうか……。勇斗と今一緒にいるよ。勇斗もすごく心配してる……大丈夫?))
画面の向こうの二人の優しさが、今の私には眩しすぎて、かえって胸が痛い。
私を心配して寄り添おうとしてくれているのは痛いほど伝わってくるけれど、今の私にはもう、誰かに言葉を返す気力さえ残っていなかった。
スマホをベッドに伏せると、部屋はまた、しんと静まり返った深い闇に包まれた。
しばらくして、静かな足音が廊下から近づき、ドアが優しくノックされた。
帰宅してから一向に部屋から出てこない私を心配して、お母さんが様子を見に来てくれたのだ。
「柚那? 電気もつけずに……どうしたの?」
ガチャリとドアが開き、廊下の淡い明かりが細く部屋に差し込む。
私はベッドに伏せっていた顔をゆっくりと上げ、お母さんを見た。
暗がりの中でも一目でわかるくらい、腫れ上がった目と憔悴しきった私の表情。それを見た瞬間、お母さんは何かを察したようだった。
けれど、理由は何も詮索せず、ただ困ったように眉を下げて、静かに言った。
「食欲ないかもしれないけど、食べられそうなものがあったら、一口でもいいから食べてね」
それだけを言い残して、お母さんはそっとドアを閉めた。
泣いている理由を無理に聞き出そうとはしない。
心配しているはずなのに、あえて深く踏み込まず、私なりに心の整理がつくまでそっと見守ろうとしてくれているのがわかった。
その無言の優しさが、涙でカサカサになった心にじわりと染み込んでいく。
お母さんが去った後、静まり返った部屋のクローゼットの扉に、視線が止まった。
そこに掛けられているのは、薄いビニールカバーに包まれた新太の学ランだった。
体育祭の応援団のとき、新太が貸してくれた学ラン。
あのとき、大きすぎる袖に腕を通すと、微かに新太の匂いがして、緊張していた心が少しだけ落ち着いたのを今でも鮮明に覚えている。
綺麗にして返そうとクリーニングに出していたものが、つい数日前に戻ってきたばかりだった。
「……返さなきゃ、いけないんだ……」
ポツリとこぼれ落ちた声は、静かな部屋に虚しく響いた。
これを返してしまえば、私と新太を繋ぐ物理的なものは本当に、何一つなくなってしまう。
あの応援団の日の嬉しかった思い出も、新太がくれた優しさも、すべてが完全に過去のものになってしまう気がして、胸が引き裂かれそうだった。
その夜、どれだけ目を閉じても、意識が途切れることはなかった。
泣き疲れて、瞼が重くてたまらないのに、頭の中は新太のことと、梨花のこと、そして「1年と1ヶ月」というあまりにもあっけない区切りで埋め尽くされている。
結局、朝を迎えるまで、一瞬たりとも眠れた気さえしなかった。
暗闇の中、微かに震える指先で、明里と勇斗にだけLINEを送った。
((わたしたち別れたよ))
((わたしはまだ……諦められなかった))
送信ボタンを押した直後、スマホの液晶画面が涙で大きく歪んで見えなくなった。
すぐに、明里からの返信のバイブレーションが響く。
((そうか……。勇斗と今一緒にいるよ。勇斗もすごく心配してる……大丈夫?))
画面の向こうの二人の優しさが、今の私には眩しすぎて、かえって胸が痛い。
私を心配して寄り添おうとしてくれているのは痛いほど伝わってくるけれど、今の私にはもう、誰かに言葉を返す気力さえ残っていなかった。
スマホをベッドに伏せると、部屋はまた、しんと静まり返った深い闇に包まれた。
しばらくして、静かな足音が廊下から近づき、ドアが優しくノックされた。
帰宅してから一向に部屋から出てこない私を心配して、お母さんが様子を見に来てくれたのだ。
「柚那? 電気もつけずに……どうしたの?」
ガチャリとドアが開き、廊下の淡い明かりが細く部屋に差し込む。
私はベッドに伏せっていた顔をゆっくりと上げ、お母さんを見た。
暗がりの中でも一目でわかるくらい、腫れ上がった目と憔悴しきった私の表情。それを見た瞬間、お母さんは何かを察したようだった。
けれど、理由は何も詮索せず、ただ困ったように眉を下げて、静かに言った。
「食欲ないかもしれないけど、食べられそうなものがあったら、一口でもいいから食べてね」
それだけを言い残して、お母さんはそっとドアを閉めた。
泣いている理由を無理に聞き出そうとはしない。
心配しているはずなのに、あえて深く踏み込まず、私なりに心の整理がつくまでそっと見守ろうとしてくれているのがわかった。
その無言の優しさが、涙でカサカサになった心にじわりと染み込んでいく。
お母さんが去った後、静まり返った部屋のクローゼットの扉に、視線が止まった。
そこに掛けられているのは、薄いビニールカバーに包まれた新太の学ランだった。
体育祭の応援団のとき、新太が貸してくれた学ラン。
あのとき、大きすぎる袖に腕を通すと、微かに新太の匂いがして、緊張していた心が少しだけ落ち着いたのを今でも鮮明に覚えている。
綺麗にして返そうとクリーニングに出していたものが、つい数日前に戻ってきたばかりだった。
「……返さなきゃ、いけないんだ……」
ポツリとこぼれ落ちた声は、静かな部屋に虚しく響いた。
これを返してしまえば、私と新太を繋ぐ物理的なものは本当に、何一つなくなってしまう。
あの応援団の日の嬉しかった思い出も、新太がくれた優しさも、すべてが完全に過去のものになってしまう気がして、胸が引き裂かれそうだった。
その夜、どれだけ目を閉じても、意識が途切れることはなかった。
泣き疲れて、瞼が重くてたまらないのに、頭の中は新太のことと、梨花のこと、そして「1年と1ヶ月」というあまりにもあっけない区切りで埋め尽くされている。
結局、朝を迎えるまで、一瞬たりとも眠れた気さえしなかった。
