部活が終わり、私は重い足取りで校門へと向かった。
門のところに着くと、すでに新太が待っていた。
夕闇が迫る中、壁に寄りかかるその姿は、見慣れているはずなのにひどく遠く感じられた。
「……待たせちゃったかな?」
声をかけると、新太はちらりとこちらを見て、表情を変えずに言った。
「そんなことないよ」
新太は短く答えると、自転車にまたがり、ゆっくりとペダルを漕ぎ出した。
帰り道は、ポツリ、ポツリと途切れがちな会話を交わすだけ。
自転車のチェーンがカラカラと鳴る音だけが、やけに大きく響いていた。隣をゆっくり走っているのに、私たちの間には見えない壁があるようで、息が詰まるような重苦しい空気が流れていた。
私の家に着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
オレンジ色の街灯の下で自転車を降りると、新太は少しだけ間を置いて、静かに口を開いた。
「柚那……俺たち、別れよう」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。
あぁ、やっぱり……。
心の中で痛いほど予感していたこととはいえ、大好きな人の口から直接その言葉を聞くと、喉の奥がヒュッと鳴って、呼吸の仕方を忘れてしまった。
それでも、ここで泣き崩れるわけにはいかない。ちゃんと最後まで、彼の言葉を聞かなきゃ。
私は震えそうになる声を必死に抑え込み、なんとか言葉を絞り出した。
「……理由を、聞かせてくれる?」
「……柚那のこと、もう大切にしてあげられないんだ。柚那に対しての気持ちが、なくなった」
淡々と告げられたその言葉に、胸を鋭い刃物でえぐられたような痛みが走る。
「そう……。ねえ、他に好きな人でも、できた?」
「できてないよ。今は自分のことで精一杯だし、誰かと付き合うとか、そういうことも全然考えてない」
嘘だ。そんなはずない。
だって、あの日。梨花と二人で消えた日の噂を、私は知っている。
それなのに、新太は私の目をまっすぐに見て、息を吐くように嘘をついたのだ。
でも、それを問い詰めたところで、もう無駄だということはわかっていた。彼の心がここにはないことだけが、残酷な真実だったから。
私はまだ、新太のことが大好きだった。どうしようもないくらい、彼に惹かれていた。
「……そっか。……でも、まだ新太のことが好きで……わたしの気の済むまで、好きでいてもいい? まだ、諦められそうにないよ……」
自分から出た言葉は、惨めなほど震えていた。
なんて自分は弱い人間なんだろう。きっぱりと受け入れることすらできないなんて。
新太は一瞬、ひどく困ったような表情を浮かべたけれど、小さく「わかった」とだけ言った。
別れが決まった直後だというのに、そのあとはなぜか、当たり障りのない世間話を少しだけした。何を話したのか、頭が真っ白でほとんど覚えていない。
ただ一つだけ、私の心に深く、致命的に突き刺さったのは、彼が笑いながら言った言葉だった。
「そういえばさ、茉莉の好きな人がクラスにいてさ。今、それを梨花と一緒に応援してるんだ」
――梨花と一緒に。
その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中で、カチリと冷たい音がした気がした。
この人は、いったい何を言っているんだろう。ついさっき私を振ったばかりなのに、誰に向かってその話をしているのか、わかっているのだろうか。
(あぁ……完全に、自分たちの世界に入りすぎている……)
私と別れた直後に、何食わぬ顔で笑って彼女の名前を出せる無神経さ。
目の前にいる私がどう思うかすら想像できないほど、今の新太は周りのことがまったく見えなくなっているのだ。
怒りや悲しみを通り越して、奇妙なほど冷静にそう結論づけている自分がいた。
「今まで、ありがとな」
最後にそう言って、新太は自転車を漕ぎ出した。
遠ざかっていく彼の背中が、夜の暗闇に溶けていくのを、私はただ立ち尽くして見送っていた。
私たちは、別れた。
1年と1ヶ月。新太と過ごした日々は、こうしてあっけなく終わった。
門のところに着くと、すでに新太が待っていた。
夕闇が迫る中、壁に寄りかかるその姿は、見慣れているはずなのにひどく遠く感じられた。
「……待たせちゃったかな?」
声をかけると、新太はちらりとこちらを見て、表情を変えずに言った。
「そんなことないよ」
新太は短く答えると、自転車にまたがり、ゆっくりとペダルを漕ぎ出した。
帰り道は、ポツリ、ポツリと途切れがちな会話を交わすだけ。
自転車のチェーンがカラカラと鳴る音だけが、やけに大きく響いていた。隣をゆっくり走っているのに、私たちの間には見えない壁があるようで、息が詰まるような重苦しい空気が流れていた。
私の家に着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
オレンジ色の街灯の下で自転車を降りると、新太は少しだけ間を置いて、静かに口を開いた。
「柚那……俺たち、別れよう」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。
あぁ、やっぱり……。
心の中で痛いほど予感していたこととはいえ、大好きな人の口から直接その言葉を聞くと、喉の奥がヒュッと鳴って、呼吸の仕方を忘れてしまった。
それでも、ここで泣き崩れるわけにはいかない。ちゃんと最後まで、彼の言葉を聞かなきゃ。
私は震えそうになる声を必死に抑え込み、なんとか言葉を絞り出した。
「……理由を、聞かせてくれる?」
「……柚那のこと、もう大切にしてあげられないんだ。柚那に対しての気持ちが、なくなった」
淡々と告げられたその言葉に、胸を鋭い刃物でえぐられたような痛みが走る。
「そう……。ねえ、他に好きな人でも、できた?」
「できてないよ。今は自分のことで精一杯だし、誰かと付き合うとか、そういうことも全然考えてない」
嘘だ。そんなはずない。
だって、あの日。梨花と二人で消えた日の噂を、私は知っている。
それなのに、新太は私の目をまっすぐに見て、息を吐くように嘘をついたのだ。
でも、それを問い詰めたところで、もう無駄だということはわかっていた。彼の心がここにはないことだけが、残酷な真実だったから。
私はまだ、新太のことが大好きだった。どうしようもないくらい、彼に惹かれていた。
「……そっか。……でも、まだ新太のことが好きで……わたしの気の済むまで、好きでいてもいい? まだ、諦められそうにないよ……」
自分から出た言葉は、惨めなほど震えていた。
なんて自分は弱い人間なんだろう。きっぱりと受け入れることすらできないなんて。
新太は一瞬、ひどく困ったような表情を浮かべたけれど、小さく「わかった」とだけ言った。
別れが決まった直後だというのに、そのあとはなぜか、当たり障りのない世間話を少しだけした。何を話したのか、頭が真っ白でほとんど覚えていない。
ただ一つだけ、私の心に深く、致命的に突き刺さったのは、彼が笑いながら言った言葉だった。
「そういえばさ、茉莉の好きな人がクラスにいてさ。今、それを梨花と一緒に応援してるんだ」
――梨花と一緒に。
その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中で、カチリと冷たい音がした気がした。
この人は、いったい何を言っているんだろう。ついさっき私を振ったばかりなのに、誰に向かってその話をしているのか、わかっているのだろうか。
(あぁ……完全に、自分たちの世界に入りすぎている……)
私と別れた直後に、何食わぬ顔で笑って彼女の名前を出せる無神経さ。
目の前にいる私がどう思うかすら想像できないほど、今の新太は周りのことがまったく見えなくなっているのだ。
怒りや悲しみを通り越して、奇妙なほど冷静にそう結論づけている自分がいた。
「今まで、ありがとな」
最後にそう言って、新太は自転車を漕ぎ出した。
遠ざかっていく彼の背中が、夜の暗闇に溶けていくのを、私はただ立ち尽くして見送っていた。
私たちは、別れた。
1年と1ヶ月。新太と過ごした日々は、こうしてあっけなく終わった。
