君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~


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沈黙が、重く長く続いた。
ファミレスの賑やかな雑音だけが、私たちの間に虚しく響いている。
明里の声に促され、私はようやく呼吸をするように現実へと引き戻された。

「……柚那?」

「……あぁ、ごめん。ぼーっとしてた。……それじゃあ、新太が『3時まで』って言ってたのも、嘘かもしれないね……」

口に出すたび、胸の奥からドロリとした冷たいものがせり上がってくる。
ただの噂。そう信じたいのに、パズルのピースがピタリとはまっていくような恐怖が私を支配していく。

「それに、まだ明里には言ってなかったんだけど……打ち上げの日以降、新太の様子がおかしいんだよね。なんか素っ気ないし、何を考えているのか全然わかんないし……っ、ぅ……っ」

せきを切ったように、我慢していた感情が溢れ出した。
言葉にしたら、本当に新太が遠くへ行ってしまったような気がして、ずっと誰にも言えなかった。

「なんで早く私に言わなかったの……っ!!!!」

明里は、俯いて泣き始めた私の隣の席へと移り、肩を優しくさすってくれた。
親友の怒りと悲しみが混ざったようなその声が、今はなによりも痛くて、そして温かかった。

「ここの席、人からあまり見えない席でよかった……」

店内の賑わいから少し外れた隅の席で、私は涙を拭いながら、無理やり笑ってみせた。
誰かに見られたら、きっと私が壊れているのがバレてしまう。そんな惨めな自分を、必死に隠そうとしていた。

そんな私を見て、明里は悲しそうな顔でこう言った。

「無理に笑おうとしなくていいから……」

その言葉に、また涙が溢れて止まらなくなった。
私の全部を見抜いてくれる明里の前だからこそ、これ以上強がることもできなかった。

「……とにかく、二人になにがあったか詳しくはわからないけど……少しの間、このままにしてみる。LINEも……今日はもう新太から返信は来てないし……」

震える声で、そう答えるのが精一杯だった。
本当はすぐにでも理由を問い詰めたい。でも、もし噂が事実だとしたら?
決定的な言葉を聞いて、今のこの関係が完全に壊れてしまうのが、どうしようもなく怖かった。

「うん……わかった。何かあったらすぐ連絡してよ」

明里はそれ以上深くは聞かず、ただ私の背中をさすり続けてくれた。
私たちはそのまま、言葉少なに帰路についた。夕暮れの街並みが、いつもよりずっと暗く、冷たく見えた。


部屋に戻って電気もつけないまま、ベッドに倒れ込む。
ふと、暗闇の中で、壁に掛けたままの黒い服が目に入った。

――体育祭で借りた、新太の学ラン。

あんなに私を安心させてくれた彼の匂いが、今はひどく生々しく感じられて、胃の奥から込み上げるような激しい吐き気がした。

あのカラオケのあと、彼はどんな手で、彼女に触れたのだろう。
どんな声で、彼女の名前を呼んだのだろう。

想像したくもないのに、どろどろとした映像が頭にこびりついて離れない。
学ランを見るだけで、その真っ黒な色が私の心を塗りつぶしていくようだった。

もう何もしたくないし、何も考えたくない。

明里の話を聞く前は、新太からの返信がないことをあんなに気にしていたのに、そんなこと今はもうどうでもよくなっていた。
返信が来ない寂しさなんて、この底知れない絶望に比べたら、ちっぽけなものだった。

ただただ涙がこぼれ落ちて、声を殺して泣くことしかできない。

携帯の画面に触れるのが怖い。
もし、新太から連絡が来ても、それが真実への入り口になるかもしれないと思うと、震えが止まらない。

その日は、涙が枯れるまで泣き疲れて。
私は這いつくばるようにして、ようやく朝方になってから眠りについた。