新太と会う約束の日。
今日は、夜に新太の両親と、お兄さん、そしてその彼女さんと一緒に夕食を囲む予定が入っていた。
それ以外は特に決まったプランはなく、昼過ぎ、私は電車に揺られて新太の家の最寄り駅に向かっていた。
車窓から流れる景色をぼんやりと眺めながらも、頭の中にはあの夜に並べ替えたあのガラケー打ちの言葉が、何度も浮かんでは消える。
改札を抜けると、いつものように新太が待ってくれていた。
「おつかれ! 電車でわざわざ来てくれてありがとな。とりあえず俺ん家でいいか?」
「うん、ありがと」
無邪気に笑う彼を見て、少しだけ胸が締め付けられた。
私たちはそのまま、歩き慣れた道を並んで新太の家へと向かった。
「こうやってゆっくり会うの、久しぶりだな! 体育祭の準備はどう? 進んでる? 俺のブロックはさ……」
自分の部屋に入るなり、新太はいつも通り楽しそうに話し始めた。けれど、会話の合間に何度もスマホに視線を落とし、LINEを返している。
今までだって、彼がスマホを触ることは普通にあったはずなのに。
今はどうしても、その画面の先に誰がいるのかを勘ぐってしまう自分がいた。
案の定、新太の口からは「梨花がさ」「茉莉がさ」と、二人の名前がやけに自然に出てきて、そのたびに私の心は複雑に波打った。
(……新太は、何を思いながらその名前を口にしてるの?)
喉の奥まで出かかった言葉を必死に飲み込む。すると、不意に新太が思い出したように顔を上げた。
「あ、そうそう! この前、勇斗と話す機会があってさ」
「……勇斗と?」
「うん。最近柚那と会ってるか聞かれたから、お互い忙しくてゆっくり会えてないことを言ったんだよ。そしたら勇斗が、『最近柚那、元気なさそうだぞ。準備で忙しいのはわかるけど、柚那との時間も大切にしろよ』って……」
勇斗が、そんなふうに言ってくれていたなんて。
明里から何か聞いていたのかもしれないし、私の些細な変化に気づいてくれていたのかもしれない。いつも不安や辛いことがあると、こうして明里や勇斗がそっと私を助けてくれる。
「最近なかなか会えなかったもんな。勇斗に言われて気づいたよ。寂しい思いさせてごめんな」
新太はそう言って、私を優しく抱き寄せた。
その言葉に救われたような、でもどこか悲しいような気持ちで、私は彼の背中に腕を回して頷くことしかできなかった。
結局、約束の時間までずっと新太の部屋で過ごした。
彼が淹れてくれた飲み物を飲みながら、他愛のない話をする。そして、少しでも彼との繋がりを確かめたくて、静かに肌を重ねた。
きつく抱きしめられるたびに、彼の体温が私の中に流れ込んでくる。
私はすがるように彼にしがみついた。あの日からずっと胸にへばりついていた嫌な予感が、彼と触れ合うこの瞬間だけは、甘い夢の中に溶けていくようだった。
私だけを見てくれている。私を大切に思ってくれている。
そう信じたくて、何度も彼の温もりを確かめ合った。
「新太ー! ご飯行くわよー!」
一階から響いたお母さんの明るい声で、いきなり現実に引き戻される。私たちは慌ただしく服を着て、部屋を出る支度をした。
夕食の席では、お兄さんやその彼女さんも含め、みんなで賑やかに会話を楽しんだ。
新太の家族はとても温かくて、私を本当の家族のように優しく迎え入れてくれる。
その居心地の良さが、今の私には少しだけくすぐったくて、同時にひどく切なかった。
帰りは新太の両親が家まで車で送ってくれて、私たちは名残惜しく別れた。
「また明日な」と手を振る新太は、いつもと何も変わらない、私の大好きな新太だった。
車を見送り、静かになった自分の部屋へと入る。
やっぱり、私の考えすぎなのかな……?
答えの出ない問いを何度も自分に投げかけながら、私は一人、ベッドに体を預けた。
今日は、夜に新太の両親と、お兄さん、そしてその彼女さんと一緒に夕食を囲む予定が入っていた。
それ以外は特に決まったプランはなく、昼過ぎ、私は電車に揺られて新太の家の最寄り駅に向かっていた。
車窓から流れる景色をぼんやりと眺めながらも、頭の中にはあの夜に並べ替えたあのガラケー打ちの言葉が、何度も浮かんでは消える。
改札を抜けると、いつものように新太が待ってくれていた。
「おつかれ! 電車でわざわざ来てくれてありがとな。とりあえず俺ん家でいいか?」
「うん、ありがと」
無邪気に笑う彼を見て、少しだけ胸が締め付けられた。
私たちはそのまま、歩き慣れた道を並んで新太の家へと向かった。
「こうやってゆっくり会うの、久しぶりだな! 体育祭の準備はどう? 進んでる? 俺のブロックはさ……」
自分の部屋に入るなり、新太はいつも通り楽しそうに話し始めた。けれど、会話の合間に何度もスマホに視線を落とし、LINEを返している。
今までだって、彼がスマホを触ることは普通にあったはずなのに。
今はどうしても、その画面の先に誰がいるのかを勘ぐってしまう自分がいた。
案の定、新太の口からは「梨花がさ」「茉莉がさ」と、二人の名前がやけに自然に出てきて、そのたびに私の心は複雑に波打った。
(……新太は、何を思いながらその名前を口にしてるの?)
喉の奥まで出かかった言葉を必死に飲み込む。すると、不意に新太が思い出したように顔を上げた。
「あ、そうそう! この前、勇斗と話す機会があってさ」
「……勇斗と?」
「うん。最近柚那と会ってるか聞かれたから、お互い忙しくてゆっくり会えてないことを言ったんだよ。そしたら勇斗が、『最近柚那、元気なさそうだぞ。準備で忙しいのはわかるけど、柚那との時間も大切にしろよ』って……」
勇斗が、そんなふうに言ってくれていたなんて。
明里から何か聞いていたのかもしれないし、私の些細な変化に気づいてくれていたのかもしれない。いつも不安や辛いことがあると、こうして明里や勇斗がそっと私を助けてくれる。
「最近なかなか会えなかったもんな。勇斗に言われて気づいたよ。寂しい思いさせてごめんな」
新太はそう言って、私を優しく抱き寄せた。
その言葉に救われたような、でもどこか悲しいような気持ちで、私は彼の背中に腕を回して頷くことしかできなかった。
結局、約束の時間までずっと新太の部屋で過ごした。
彼が淹れてくれた飲み物を飲みながら、他愛のない話をする。そして、少しでも彼との繋がりを確かめたくて、静かに肌を重ねた。
きつく抱きしめられるたびに、彼の体温が私の中に流れ込んでくる。
私はすがるように彼にしがみついた。あの日からずっと胸にへばりついていた嫌な予感が、彼と触れ合うこの瞬間だけは、甘い夢の中に溶けていくようだった。
私だけを見てくれている。私を大切に思ってくれている。
そう信じたくて、何度も彼の温もりを確かめ合った。
「新太ー! ご飯行くわよー!」
一階から響いたお母さんの明るい声で、いきなり現実に引き戻される。私たちは慌ただしく服を着て、部屋を出る支度をした。
夕食の席では、お兄さんやその彼女さんも含め、みんなで賑やかに会話を楽しんだ。
新太の家族はとても温かくて、私を本当の家族のように優しく迎え入れてくれる。
その居心地の良さが、今の私には少しだけくすぐったくて、同時にひどく切なかった。
帰りは新太の両親が家まで車で送ってくれて、私たちは名残惜しく別れた。
「また明日な」と手を振る新太は、いつもと何も変わらない、私の大好きな新太だった。
車を見送り、静かになった自分の部屋へと入る。
やっぱり、私の考えすぎなのかな……?
答えの出ない問いを何度も自分に投げかけながら、私は一人、ベッドに体を預けた。
