ある日の休み時間。
廊下の窓際で美波と話していると、新太が一人の男子を連れてこちらへ歩いてきた。
「おーい、柚那! 紹介するよ。こいつ、鈴村勇斗(すずむら ゆうと)。同じクラスで、野球部」
「初めまして、鈴村です」
隣の彼が、少し照れくさそうに頭を下げる。
その顔を見た瞬間、私は心の中で小さく声を上げた。
(……入学式の日に見た、あの子だ)
体育館へ向かう列の中で、ふと視線を引き寄せられた男の子。すっきりとした坊主頭に、すらりと高い背、整った横顔。
記憶の片隅にいたその子が、いま目の前で笑っている。
笑うと目元がふっと和らいで、無口そうな第一印象が、少しだけ崩れた。
偶然の再会に、鼓動が少しだけ速くなった。
「柚那? どした、固まってんぞ」と新太が笑う。
はっと我に返って、私は慌てて頭を下げた。
「ご、ごめん! 初めまして、下崎です!」
「なんで敬語なんだよ」と新太が吹き出し、美波も笑った。
「こいつ無口に見えるけど、喋ると意外と面白いから」と新太が続ける。
「余計なこと言うなよ」
そう言い返した勇斗がバツの悪そうな顔で頭をかいた。さっきまでの距離が、少しだけ近くなった気がした。
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それからというもの、休み時間は四人で過ごすのが当たり前になった。
「今日の練習、先輩のノックがえぐくてさ」と勇斗がぼやけば、「お前、昨日も同じこと言ってたじゃん」と新太が笑う。
「ノックって何?」と美波が首を傾げ、勇斗が真面目に説明し始めて、新太に「長い長い」と止められる。
野球部は大変なんだなぁ、と相槌を打ちながら、ふと雅人の顔が浮かんだ。彼も今ごろ、同じように白球を追っているのだろうか。……考えるのは、やめた。
ある日の昼休み、流れで雅人のことを話してみた。
「それはひどいな」と新太が眉をひそめ、「柚那は悪くないよ!」と美波がすかさず言ってくれる。
勇斗は少し黙ってから、ぽつりと言った。
「そんな奴のことで、柚那がそこまで気にすることないだろ」
笑って「そうだよね」と返しながら、目の奥がじんわりと熱くなった。
勇斗は何も言わず、自分のパックのお茶を、こちらへ少しだけ押しやってくれた。
冷たいお茶を一口飲んだら、なぜか少しだけ、体の力が抜けた。
重い話をしても、誰も茶化さない。一緒に怒って、笑い飛ばしてくれる。
このまま、ずっとこの四人でいられたらいいな。
そんなふうに、ぼんやりと願っていた。
入学式の日に見かけたあの男の子――勇斗との再会。この四人の時間が、柚那の運命を大きく動かしていきます。ぜひ【本棚登録】で見守っていただけると嬉しいです🌙
