君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

夏休み中のダンス練習は、朝からお昼にかけてほぼ毎日行われた。
午後からは部活がある日もあれば、ない日もあったけれど、ダンスの練習と部活の両方を兼任していた私は、夏休みのほとんどの時間を学校で過ごすことになった。
それはみんなも同じで、新太や梨花たち、勇斗や明里たちとも、校内のいたるところで顔を合わせていた。

ただ、気にかかることがひとつあった。
新太のブロックのダンスチームは、練習を重ねるごとにどんどん絆を深めているようで、いつも同じメンバーで行動しているのが目についていた。

ダンスの練習はもちろん、衣装作りや、必要な材料の買い出し。いつも新太と梨花、茉莉、そして同じクラスの大地(だいち)という男の子を加えた、男女四人のグループでべったりと行動していたのだ。

練習や休憩中、四人で楽しそうにしている姿を遠くから見かけるたび、私はそれをどうしても良くは思えなかった。
新太の腕に梨花が自然にボディタッチをして笑い合っていたり、一つのスマホの画面を頭を寄せ合って覗き込んでいたり。
ただのクラスメイトとして仲が良いというレベルを超えて、お互いの距離感が異様に近く見えたからだ。

「……体育祭の練習なんだし、役割分担もあるから仕方がないことだよね」
そう自分に言い聞かせて無理やり納得しようとするけれど、胸の奥がチリチリと熱くなる。

そんなある日。部活が終わったあとの夕暮れの駐輪場で、別のブロックに所属する明里と顔を合わせた。

帰り支度をして、お互いの自転車を引きながら歩き出そうとしたとき。ふと明里がグラウンドの方をそれとなく見て言った。

「ねぇ、柚那。あの四人、あんなにいつも一緒にいて……ちょっと仲良すぎじゃない?」

明里のその一言で、私の中で燻っていたモヤモヤが、確信に変わった。
私が感じていた違和感は、ただの嫉妬や勘違いではなかったのだ。

そのまま私たちは、何気ない話題からお互いの恋模様の話になった。

「……そういえば、勇斗とはどうなの?」
私が聞くと、明里は少し困ったように笑った。

「勇斗くんは優しくて、私のことも大切にしてくれるよ。キスだってするし、いい雰囲気にもなるんだけど……どうしてもそこから先になると、勇斗くんがふっと立ち止まって、『ごめん…』って謝って距離を置こうとするんだよね」

「そうなんだ……」

「うん。拒否されてるわけじゃないんだろうけど、勇斗くん、本当に私のこと好きでいてくれてるのかなってたまに不安になるんだよね」

その言葉に、私はハッとした。
いつも明るい明里が見せた、痛いくらいに脆い表情。同じように、見えない距離感に悩む明里の不安が、痛いほど伝わってきたからだ。

「……不安だよね。でも、勇斗は明里のこと大切に思ってるよ。」
「大丈夫だよ。明里の気持ち、勇斗にちゃんと届いてると思う」

それは明里を励ます言葉であると同時に、新太との関係に悩む自分自身に言い聞かせているようでもあった。
明里は少しだけ泣きそうな顔をした後、「……そっか。そうだよね、ありがとう」と小さく息を吐いて微笑んだ。

「恋愛って、難しいね」

「……うん。本当に。」

私たちは夕暮れに染まる駐輪場で顔を見合わせ、お互いの背中を押すように小さく笑い合った。

夏休みが進むにつれて、新太はだんだんと、私と過ごす時間よりも梨花や茉莉たちと一緒にいる時間の方が増えていった。

LINEのやり取りは続いていたけれど、お互いの練習や準備に追われて、顔を合わせて二人きりで話す時間は目に見えて減っていく。

それでも、LINEの最後にはいつも、新太から優しい言葉が届いていた。

『柚那、だいすきだよ』

夜、一人きりの薄暗い部屋で。
ぼんやりと光る画面に映るその言葉だけが、今の私の不安を辛うじて繋ぎ止めてくれていた。