「……奈津って、だれ?」
泣かないように、震える声でそう言うのが精一杯だった。
夕暮れの静けさの中、絞り出した私の声は、自分でも驚くほどはっきりと響いた。
「っ……!」
私の問いかけに、新太は言葉を詰まらせ、驚きで目を見開いた。
まさか私の口からその名前が出るとは、夢にも思っていなかったのだろう。その泳ぐ視線が、すべてを物語っているようだった。
「ごめん……。新太のスマホに、ちょうどLINEがきてたから……見ちゃった」
勝手に覗いてしまった罪悪感と、裏切られていたかもしれない恐怖で、足の震えが止まらない。
新太は気まずそうに視線を外し、しばらく俯いていた。
やがて、小さく、重いため息をついて口を開いた。
「奈津は、中学のときの元カノだよ」
元カノ。その単語が、胸の奥を鋭くえぐる。
「……ほんとに、会いたいと思ってるの?」
「いや、そんなつもりないよ。……ただ、向こうがそういうテンションだったから、ついノリで合わせちゃっただけで……」
ノリ……?
画面ではあんなに楽しそうに「会いたい」と言い合っていたのに。目に焼き付いた文字が脳内で何度もフラッシュバックする。
頭が混乱して、どう返せばいいのか分からない。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺には柚那だけだよ。……たとえ物の貸し借りだけだとしても、会ったり、ノリに合わせてあぁやって返信したりするのは間違いだった。本当にごめん」
必死な新太の顔。
信じたい。心からそう願っているのに、一度芽生えてしまった疑念は、そう簡単には消えてくれない。
頭の中がぐちゃぐちゃで、これからどうすればいいのか分からなくなっていた。
「俺は柚那と別れたくない。……もし安心できるなら、女子の連絡先全部消したっていいよ」
連絡先を消したら、私の気持ちは落ち着くのかな。
私にも、本当の答えなんて分からなかった。
ただ、堪えきれなくなった涙がこぼれ落ちて、頬を伝った。
「ここで話すより、ひとまず俺ん家に行こう。……落ち着いて話そう」
新太の家までの道中、2人とも無言だった。
私はただ下を向いて、静かに涙を拭うことしかできなかった。
新太の部屋に入り明かりをつけると、彼は静かに私を見つめた。
「泣かせてごめん。……でも、そんな顔で泣かれたら、ほっとけない。抱きしめていい?」
少し掠れた声でそう言われて、私は拒めなかった。
きっと私は、まだ新太のことが大好きで、悔しいけれどどうしようもなく彼を求めているからだ。
差し出された腕の中に身を委ねると、新太は私を力強く抱きしめながら、耳元で静かに聞いてきた。
「柚那は、どうしたい?」
「……私も、別れたくない」
言葉にすると、堰を切ったように本音が溢れ出した。
別れたくない。それが私の、情けないけれど偽りのない本心だった。
「わかった。これから信用してもらえるように頑張るから。本当に、ごめんな」
新太は私を腕から離すと、私の前でスマホを取り出した。
そして、宣言通り、目の前で女子の連絡先を一つずつタップし、迷いなく削除していった。
誠意を見せてくれている。それは痛いほど分かる。
だけど、画面の中の連絡先が無機質に消えていくのを見つめていても、私の心はちっとも晴れることはなかった。
一度知ってしまった「奈津」という存在は、連絡先を消したくらいで私の記憶から消えはしない。
これで、本当によかったのかな……。
胸の奥の小さな違和感を抱えたまま、私はただ消えていく画面を見つめていた。
泣かないように、震える声でそう言うのが精一杯だった。
夕暮れの静けさの中、絞り出した私の声は、自分でも驚くほどはっきりと響いた。
「っ……!」
私の問いかけに、新太は言葉を詰まらせ、驚きで目を見開いた。
まさか私の口からその名前が出るとは、夢にも思っていなかったのだろう。その泳ぐ視線が、すべてを物語っているようだった。
「ごめん……。新太のスマホに、ちょうどLINEがきてたから……見ちゃった」
勝手に覗いてしまった罪悪感と、裏切られていたかもしれない恐怖で、足の震えが止まらない。
新太は気まずそうに視線を外し、しばらく俯いていた。
やがて、小さく、重いため息をついて口を開いた。
「奈津は、中学のときの元カノだよ」
元カノ。その単語が、胸の奥を鋭くえぐる。
「……ほんとに、会いたいと思ってるの?」
「いや、そんなつもりないよ。……ただ、向こうがそういうテンションだったから、ついノリで合わせちゃっただけで……」
ノリ……?
画面ではあんなに楽しそうに「会いたい」と言い合っていたのに。目に焼き付いた文字が脳内で何度もフラッシュバックする。
頭が混乱して、どう返せばいいのか分からない。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺には柚那だけだよ。……たとえ物の貸し借りだけだとしても、会ったり、ノリに合わせてあぁやって返信したりするのは間違いだった。本当にごめん」
必死な新太の顔。
信じたい。心からそう願っているのに、一度芽生えてしまった疑念は、そう簡単には消えてくれない。
頭の中がぐちゃぐちゃで、これからどうすればいいのか分からなくなっていた。
「俺は柚那と別れたくない。……もし安心できるなら、女子の連絡先全部消したっていいよ」
連絡先を消したら、私の気持ちは落ち着くのかな。
私にも、本当の答えなんて分からなかった。
ただ、堪えきれなくなった涙がこぼれ落ちて、頬を伝った。
「ここで話すより、ひとまず俺ん家に行こう。……落ち着いて話そう」
新太の家までの道中、2人とも無言だった。
私はただ下を向いて、静かに涙を拭うことしかできなかった。
新太の部屋に入り明かりをつけると、彼は静かに私を見つめた。
「泣かせてごめん。……でも、そんな顔で泣かれたら、ほっとけない。抱きしめていい?」
少し掠れた声でそう言われて、私は拒めなかった。
きっと私は、まだ新太のことが大好きで、悔しいけれどどうしようもなく彼を求めているからだ。
差し出された腕の中に身を委ねると、新太は私を力強く抱きしめながら、耳元で静かに聞いてきた。
「柚那は、どうしたい?」
「……私も、別れたくない」
言葉にすると、堰を切ったように本音が溢れ出した。
別れたくない。それが私の、情けないけれど偽りのない本心だった。
「わかった。これから信用してもらえるように頑張るから。本当に、ごめんな」
新太は私を腕から離すと、私の前でスマホを取り出した。
そして、宣言通り、目の前で女子の連絡先を一つずつタップし、迷いなく削除していった。
誠意を見せてくれている。それは痛いほど分かる。
だけど、画面の中の連絡先が無機質に消えていくのを見つめていても、私の心はちっとも晴れることはなかった。
一度知ってしまった「奈津」という存在は、連絡先を消したくらいで私の記憶から消えはしない。
これで、本当によかったのかな……。
胸の奥の小さな違和感を抱えたまま、私はただ消えていく画面を見つめていた。
