「会いたい……?」
信じられなかった。
携帯を握りしめている手が、微かに震えている。
指先から血の気が引いていくように冷たくなっていくのに、急激に身体は熱くなって、頭に血が上っていくのが自分でもはっきりと分かった。
心臓が、耳元でうるさいくらいの音を立てて激しく脈打っている。
だけど、もうすぐ新太がシャワーを終えて出てきてしまう。
ドアの向こうから聞こえる水の音が、いつ止まってもおかしくない状況だった。
私は急いで携帯を元の場所に置き、逃げるようにして脱衣所を後にした。
自分の足音が妙に大きく響いているような気がして、胸が押し潰されそうだった。
部屋に戻ってベッドの端に腰を下ろしても、バクバクと暴れる心臓は一向に静まらなかった。
しばらくすると、さっぱりとした顔の新太が戻ってきた。
「あー、すっきりした」
タオルで濡れた髪を拭きながら、新太はいつも通りの無防備な笑顔を私に向ける。
その笑顔が、今の私には酷く残酷なものに見えた。
新太が何気ない雑談を振ってきても、私の耳にはまともに届かなかった。
「柚那? 聞いてる?」
「あ、うん……ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
一言を発するだけでも、上手く声が出ない。
新太から何か話しかけられても、それ以上はただ小さく頷くことしかできなかった。
そのまま、新太の荷物を置くために、電車で彼の家へと向かうことになった。
車内はそれほど混み合っていなくて、私たちは並んで吊り革に掴まった。
いつもなら、くだらないことで笑い合ったり、どちらからともなく手を繋いだりする時間なのに、今の私にはそんな余裕は一ミリもなかった。
私はただ、じっとうつむいていた。
顔を見てしまったら、どんな表情をしていいか分からない。
新太に私の動揺を悟られたくないという思いと、彼の顔を見ることへの恐怖。
ガタンゴトンと一定のテンポで揺れる車内で、私は自分の靴の先を見つめながら、冷え切った心でそんなことを考えていた。
電車を降り、駅から彼の家に向かって歩いている間も、新太はいつも通り楽しそうに話を続けていた。
「今度の休みさ、あそこのショップ行ってみない? 柚那が好きそうなやつ売ってたんだよね」
前を向いたまま、弾んだ声で私を誘ってくれる新太。
普段なら「本当!? 行きたい!」と大喜びで飛びついているはずの言葉だった。
だけど、今の私に返せたのは、「うん、そうだね」という、感情の籠もっていない掠れた声だけだった。
あまりにも私の反応が素っ気ないことに、新太もさすがに猛烈な違和感を覚えたのだろう。
それまで饒舌だった新太の口数が、目に見えて減っていった。
人気の少ない帰り道の途中で、新太は急にピタッと足を止めた。
「なにお前、どうしたんだよ? 何かあるなら言いなよ」
私の態度にイライラしたのだろう。新太は少し声を荒らげて、怒ったような口調で私に言った。
いつもの優しい新太ではなく、感情を隠さない男の顔がそこにあった。
(……よく、そんな言葉が言えるよね)
私の手を震わせたあのLINEの件を、新太は完全に隠せていると思っている。
自分は何も悪くない、何も後ろめたいことはないという顔をして、私を責めるような目を向けている。
目の前で憤慨している新太の姿を見つめながら、私は悲しさを通り越して、心の中に冷たい風が吹き抜けるのを感じていた。
そして、どうしようもないほどの虚しさと共に、心の中で冷たく失笑していた。
信じられなかった。
携帯を握りしめている手が、微かに震えている。
指先から血の気が引いていくように冷たくなっていくのに、急激に身体は熱くなって、頭に血が上っていくのが自分でもはっきりと分かった。
心臓が、耳元でうるさいくらいの音を立てて激しく脈打っている。
だけど、もうすぐ新太がシャワーを終えて出てきてしまう。
ドアの向こうから聞こえる水の音が、いつ止まってもおかしくない状況だった。
私は急いで携帯を元の場所に置き、逃げるようにして脱衣所を後にした。
自分の足音が妙に大きく響いているような気がして、胸が押し潰されそうだった。
部屋に戻ってベッドの端に腰を下ろしても、バクバクと暴れる心臓は一向に静まらなかった。
しばらくすると、さっぱりとした顔の新太が戻ってきた。
「あー、すっきりした」
タオルで濡れた髪を拭きながら、新太はいつも通りの無防備な笑顔を私に向ける。
その笑顔が、今の私には酷く残酷なものに見えた。
新太が何気ない雑談を振ってきても、私の耳にはまともに届かなかった。
「柚那? 聞いてる?」
「あ、うん……ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
一言を発するだけでも、上手く声が出ない。
新太から何か話しかけられても、それ以上はただ小さく頷くことしかできなかった。
そのまま、新太の荷物を置くために、電車で彼の家へと向かうことになった。
車内はそれほど混み合っていなくて、私たちは並んで吊り革に掴まった。
いつもなら、くだらないことで笑い合ったり、どちらからともなく手を繋いだりする時間なのに、今の私にはそんな余裕は一ミリもなかった。
私はただ、じっとうつむいていた。
顔を見てしまったら、どんな表情をしていいか分からない。
新太に私の動揺を悟られたくないという思いと、彼の顔を見ることへの恐怖。
ガタンゴトンと一定のテンポで揺れる車内で、私は自分の靴の先を見つめながら、冷え切った心でそんなことを考えていた。
電車を降り、駅から彼の家に向かって歩いている間も、新太はいつも通り楽しそうに話を続けていた。
「今度の休みさ、あそこのショップ行ってみない? 柚那が好きそうなやつ売ってたんだよね」
前を向いたまま、弾んだ声で私を誘ってくれる新太。
普段なら「本当!? 行きたい!」と大喜びで飛びついているはずの言葉だった。
だけど、今の私に返せたのは、「うん、そうだね」という、感情の籠もっていない掠れた声だけだった。
あまりにも私の反応が素っ気ないことに、新太もさすがに猛烈な違和感を覚えたのだろう。
それまで饒舌だった新太の口数が、目に見えて減っていった。
人気の少ない帰り道の途中で、新太は急にピタッと足を止めた。
「なにお前、どうしたんだよ? 何かあるなら言いなよ」
私の態度にイライラしたのだろう。新太は少し声を荒らげて、怒ったような口調で私に言った。
いつもの優しい新太ではなく、感情を隠さない男の顔がそこにあった。
(……よく、そんな言葉が言えるよね)
私の手を震わせたあのLINEの件を、新太は完全に隠せていると思っている。
自分は何も悪くない、何も後ろめたいことはないという顔をして、私を責めるような目を向けている。
目の前で憤慨している新太の姿を見つめながら、私は悲しさを通り越して、心の中に冷たい風が吹き抜けるのを感じていた。
そして、どうしようもないほどの虚しさと共に、心の中で冷たく失笑していた。
