「柚那。おはよ、起きて? もうすぐ日の出だよ」
耳元で聞こえる新太の優しい声に、私はゆっくりとまぶたを開けた。
「ん……おはよ。まだ、真っ暗だね。すぐ準備する」
隣にある新太のご両親のテントからは、まだ物音ひとつしない。二人ともぐっすり眠っているみたいだった。
私は手早く洗面を済ませてテントに戻ると、新太がすでに外に二人分のイスを並べてくれていた。
まだ暗くてよく見えないけれど、きっとこの目の前には、あの雄大な富士山がそびえ立っているのだろう。
「イス、ありがとう。……でも、まだこの時間は結構肌寒いね」
思わず自分の両腕をさすっていると、「これ掛けときな」と新太が持っていた温かい毛布を私の肩にふわりと掛けてくれた。
「親はまだ寝てるし、日の出までちょっと時間あるからさ。ここで話しながら待ってようか」
新太は自分のイスを引き寄せて座ると、少し照れくさそうに夜空を見上げて、ぽつりと話し出した。
「柚那はさ。俺がはじめて柚那のこと知ったのって、エマが俺に教室から声をかけた時だと思ってんだろ?」
「え? 違うの?」
てっきり、あの時が初めてお互いを認識した瞬間だと思っていたから、私は驚いて新太の横顔を見た。
「ほんとは違うんだよ。俺がはじめて柚那の存在を知ったのはさ……」
新太が教えてくれたのは、合格通知が届いてすぐの後。
まだ私たちが高校へ入学する前の、あの少し緊張感の漂う『入学説明会』の日だった。
その日は学校生活の説明を聞いたり、制服や教材の注文をしたりする日だったのだけれど、私たちは偶然にも苗字が同じだったから、座席が前後の位置に指定されていたらしい。
新太が席に座っていたとき、私がふと席を立って、後ろを振り返りながらあたりをきょろきょろと見渡した瞬間があったという。
その時、後ろにいた新太は、私とバチッと目が合ったのだと教えてくれた。
一目惚れ、とまではいかないけれど、なぜかその時の私の姿がすごく印象的で、新太の心に深く残った。入学したあとも、ずっと私のことを覚えていたらしい。
「なんならあの時、俺の足が柚那のイスにぶつかっちゃってさ。『あ、すみません』ってちょっと会話したくらいだぞ」
「ええっ!? ぜんっぜん覚えてない!」
「だろ? でも、それくらい前から、俺は柚那のこと知ってたんだよね」
新太は少し声をトーンダウンさせて、優しく微笑んだ。
「あの時、柚那のこと見て、なんか不思議な気持ちになったんだよ。それで入学したあともずっと目で追っちゃっててさ。それが、こうして言葉を交わすようになって、今じゃ俺の彼女になって……。って、なんか、すごいことだよな」
新太は毛布の上から、私の手をそっと握りしめた。男の子の、大きくて温かい手。
「……恥ずかしいけど、俺、本当に柚那のことがすごい好きだよ。こうして、一緒にキャンプにも来れてさ。……ありがとな、柚那」
心臓の奥が、ぎゅーっと甘く締め付けられる。
新太はいつだって、格好つけずに自分の言葉で、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。
その温かさが嬉しくて、愛おししくて、私の胸の中から溢れそうだった。
「……私も、新太のこと、大好きだよ」
飾らない、偽りのない、私の本当の気持ち。
新太の温もりに包まれながら、私は自然と、その言葉を口にしていた。
付き合う前は、あんなに「中途半端な気持ちでいいのかな」って一人で悩んでいたけれど。
いつの間にか、私はちゃんと、新太のことを心から好きになっていた。
耳元で聞こえる新太の優しい声に、私はゆっくりとまぶたを開けた。
「ん……おはよ。まだ、真っ暗だね。すぐ準備する」
隣にある新太のご両親のテントからは、まだ物音ひとつしない。二人ともぐっすり眠っているみたいだった。
私は手早く洗面を済ませてテントに戻ると、新太がすでに外に二人分のイスを並べてくれていた。
まだ暗くてよく見えないけれど、きっとこの目の前には、あの雄大な富士山がそびえ立っているのだろう。
「イス、ありがとう。……でも、まだこの時間は結構肌寒いね」
思わず自分の両腕をさすっていると、「これ掛けときな」と新太が持っていた温かい毛布を私の肩にふわりと掛けてくれた。
「親はまだ寝てるし、日の出までちょっと時間あるからさ。ここで話しながら待ってようか」
新太は自分のイスを引き寄せて座ると、少し照れくさそうに夜空を見上げて、ぽつりと話し出した。
「柚那はさ。俺がはじめて柚那のこと知ったのって、エマが俺に教室から声をかけた時だと思ってんだろ?」
「え? 違うの?」
てっきり、あの時が初めてお互いを認識した瞬間だと思っていたから、私は驚いて新太の横顔を見た。
「ほんとは違うんだよ。俺がはじめて柚那の存在を知ったのはさ……」
新太が教えてくれたのは、合格通知が届いてすぐの後。
まだ私たちが高校へ入学する前の、あの少し緊張感の漂う『入学説明会』の日だった。
その日は学校生活の説明を聞いたり、制服や教材の注文をしたりする日だったのだけれど、私たちは偶然にも苗字が同じだったから、座席が前後の位置に指定されていたらしい。
新太が席に座っていたとき、私がふと席を立って、後ろを振り返りながらあたりをきょろきょろと見渡した瞬間があったという。
その時、後ろにいた新太は、私とバチッと目が合ったのだと教えてくれた。
一目惚れ、とまではいかないけれど、なぜかその時の私の姿がすごく印象的で、新太の心に深く残った。入学したあとも、ずっと私のことを覚えていたらしい。
「なんならあの時、俺の足が柚那のイスにぶつかっちゃってさ。『あ、すみません』ってちょっと会話したくらいだぞ」
「ええっ!? ぜんっぜん覚えてない!」
「だろ? でも、それくらい前から、俺は柚那のこと知ってたんだよね」
新太は少し声をトーンダウンさせて、優しく微笑んだ。
「あの時、柚那のこと見て、なんか不思議な気持ちになったんだよ。それで入学したあともずっと目で追っちゃっててさ。それが、こうして言葉を交わすようになって、今じゃ俺の彼女になって……。って、なんか、すごいことだよな」
新太は毛布の上から、私の手をそっと握りしめた。男の子の、大きくて温かい手。
「……恥ずかしいけど、俺、本当に柚那のことがすごい好きだよ。こうして、一緒にキャンプにも来れてさ。……ありがとな、柚那」
心臓の奥が、ぎゅーっと甘く締め付けられる。
新太はいつだって、格好つけずに自分の言葉で、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。
その温かさが嬉しくて、愛おししくて、私の胸の中から溢れそうだった。
「……私も、新太のこと、大好きだよ」
飾らない、偽りのない、私の本当の気持ち。
新太の温もりに包まれながら、私は自然と、その言葉を口にしていた。
付き合う前は、あんなに「中途半端な気持ちでいいのかな」って一人で悩んでいたけれど。
いつの間にか、私はちゃんと、新太のことを心から好きになっていた。
