画面に表示されていたのは、親友の明里からのLINEだった。
『柚那! 実はうちの式場で急遽、模擬結婚式のイベントが決まってさ! 新郎新婦役のモデルを探してるんだけど、日程が近くて焦ってて……! 柚那と柊くんにお願いできないかな?』
(……模擬結婚式の、モデル……?)
暗い部屋の中、眩しく光る画面を見つめたまま、指先がピタリと止まる。
『結婚式』『新郎新婦』『モデル』——。
画面に並ぶ言葉のどれもが、今の自分には眩しすぎて、胸の奥がチクチクと痛む。
ブライダル業界で頑張っている親友の姿を知っているからこそ、困っているなら助けてあげたい。
でも、さっき和食屋で「自慢の彼女」の顔をさせられ、二人きりになった途端に「引き立て役には丁度いい」と笑われたあの惨めさ。私の気持ちなんて知ろうともせず、都合のいい道具みたいに扱う彼の冷たい目。
そんな柊と一緒に、幸せなカップルのフリをしてドレスを着るなんて、考えただけで寒気がした。
だったら今すぐ、明里に『実は柊と別れることになったから、モデルはできない』と本当のことを伝えればいい。親友の彼女なら、きっと親身になって話を聞いてくれるはずだ。
けれど、明里のLINEにある「焦ってて……!」という言葉が私をためらわせた。
仕事でパニックになっているこのタイミングで『別れる』なんて爆弾を落としたら、明里は余計に混乱して、間違いなくすぐに心配の電話をかけてくるだろう。
和食屋での扱いで完全に心が折れきっている今の私には、明里の優しい声を聞いて、泣かずに事情を説明する気力なんてどこにも残っていなかった。
(……明日、彼の部屋に行ってちゃんと別れてから、全部話そう)
明日の仕事が終わったら、柊の部屋へ行ってハッキリ「別れたい」と伝える。合鍵も返して、全部終わりにしよう。
そして部屋を出たあとに明里へ連絡して、「実は別れたんだ……ごめんね」と本当の理由を話して謝ろう。
今夜は、明里の仕事を邪魔せず、余計に不安にさせない返信だけ送っておこう。
そう心の中で自分に言い聞かせると、私は画面をそっとタップした。
『誘ってくれてありがとう! 柊の予定も確認してみるから、明日また連絡するね!』
明里には「柊の予定を確認して返事をする」という意味で。
私の中では「明日、柊と別れてから本当のことを連絡する」という意味を込めて。
波風を立てないための嘘のメッセージを送信した。
◇
翌日。仕事が終わったあと、私は重い足取りで柊が一人暮らしを始めたマンションへと向かった。
見慣れたはずの鉄の扉の前に立つだけで、心臓が警鐘のように早鐘を打つ。
(今日で、全部終わらせるんだ……)
冷え切った両手でギュッと拳を握りしめ、小さく深呼吸をしてから、私はバッグから合鍵を取り出した——。
『柚那! 実はうちの式場で急遽、模擬結婚式のイベントが決まってさ! 新郎新婦役のモデルを探してるんだけど、日程が近くて焦ってて……! 柚那と柊くんにお願いできないかな?』
(……模擬結婚式の、モデル……?)
暗い部屋の中、眩しく光る画面を見つめたまま、指先がピタリと止まる。
『結婚式』『新郎新婦』『モデル』——。
画面に並ぶ言葉のどれもが、今の自分には眩しすぎて、胸の奥がチクチクと痛む。
ブライダル業界で頑張っている親友の姿を知っているからこそ、困っているなら助けてあげたい。
でも、さっき和食屋で「自慢の彼女」の顔をさせられ、二人きりになった途端に「引き立て役には丁度いい」と笑われたあの惨めさ。私の気持ちなんて知ろうともせず、都合のいい道具みたいに扱う彼の冷たい目。
そんな柊と一緒に、幸せなカップルのフリをしてドレスを着るなんて、考えただけで寒気がした。
だったら今すぐ、明里に『実は柊と別れることになったから、モデルはできない』と本当のことを伝えればいい。親友の彼女なら、きっと親身になって話を聞いてくれるはずだ。
けれど、明里のLINEにある「焦ってて……!」という言葉が私をためらわせた。
仕事でパニックになっているこのタイミングで『別れる』なんて爆弾を落としたら、明里は余計に混乱して、間違いなくすぐに心配の電話をかけてくるだろう。
和食屋での扱いで完全に心が折れきっている今の私には、明里の優しい声を聞いて、泣かずに事情を説明する気力なんてどこにも残っていなかった。
(……明日、彼の部屋に行ってちゃんと別れてから、全部話そう)
明日の仕事が終わったら、柊の部屋へ行ってハッキリ「別れたい」と伝える。合鍵も返して、全部終わりにしよう。
そして部屋を出たあとに明里へ連絡して、「実は別れたんだ……ごめんね」と本当の理由を話して謝ろう。
今夜は、明里の仕事を邪魔せず、余計に不安にさせない返信だけ送っておこう。
そう心の中で自分に言い聞かせると、私は画面をそっとタップした。
『誘ってくれてありがとう! 柊の予定も確認してみるから、明日また連絡するね!』
明里には「柊の予定を確認して返事をする」という意味で。
私の中では「明日、柊と別れてから本当のことを連絡する」という意味を込めて。
波風を立てないための嘘のメッセージを送信した。
◇
翌日。仕事が終わったあと、私は重い足取りで柊が一人暮らしを始めたマンションへと向かった。
見慣れたはずの鉄の扉の前に立つだけで、心臓が警鐘のように早鐘を打つ。
(今日で、全部終わらせるんだ……)
冷え切った両手でギュッと拳を握りしめ、小さく深呼吸をしてから、私はバッグから合鍵を取り出した——。
