卒業式が無事に終わり、柔らかな春の日差しが街を包み込む春休み。
約束通り、私と優奈、愛、沙莉の女子四人は、一泊二日の温泉卒業旅行へと出かけていた。
湯気の立ち込める露天風呂に浸かりながら、辛かった実習や国家試験に向けた勉強漬けの日々を振り返る。
「本当にいろいろあったけど、みんなで合格できてよかったよね」
「本当だよ! 柚那がいなかったら私、途中で投げ出してたかも!」
夜、旅館の部屋で色鮮やかな浴衣を着て布団を並べ、お菓子をつまみながら遅くまで語り合った。
ふと、隣に横になった優奈が真面目な顔になり、私を静かに見つめてきた。
「柚那。社会人になって柊がひとり暮らしを始めたら……絶対に、無理しすぎちゃダメだからね?」
「……うん。ありがとう、優奈」
親友の温かい心配が胸に染み渡る。もう情で流されたりはしない、ちゃんと自分の気持ちに向き合って切り出すんだと、心の中で優奈に誓った。
ニ年間、私の一番近くで笑い、支えてくれた大切な仲間たちとの思い出が、心の深い場所に優しく刻まれていった。
ーーーーーーーーーー
女子旅から戻ったあと、今度は卒業式で約束していた柊との二人きりの卒業旅行へと向かった。
柊の車で春風が心地よい観光地をドライブし、美味しいものを食べて過ごす。
柊は終始ご機嫌で、楽しそうにハンドルを握っていた。
(……早く無事に終わってほしい……)
助手席で流れる景色を見つめながら、私は心の中でそう呟いた。
ここで余計なことを言って柊を不機嫌にさせ、ドライブ中に機嫌を損ねられたら面倒でたまらない。
私は彼を刺激しないよう、表面上は笑顔を合わせて無難にやり過ごすことだけに集中していた。
旅行の帰りにそのまま向かったのは、四月から柊がひとり暮らしを始めるという新居だった。
まだダンボールが幾つも積まれた小さな部屋。
二人でダンボールを開けて荷物を整理したり、家具の配置を考えたりと、引っ越しの準備を手伝う。
「柚那、手伝ってくれてサンキュ。助かったわ」
ひと通り作業を終え、畳んだダンボールの脇に並んで腰を下ろし、買ってきた缶ジュースで乾杯する。
一口飲んで、まだ何もないガランとした部屋を見回していた柊が、ふっと誇らしげに口角を上げた。
「まあ、俺たちもとうとう社会人だな。自分だけの部屋って思うと、なんか大人になった感じがしてワクワクするわ」
「そうだね。素敵な部屋になるといいね」
人懐っこい笑顔で私を見つめ、どこか余裕そうに缶を弄ぶ柊。
(……大丈夫。焦らなくていい。決着をつけるのは、社会人になってから人目のたくさんあるカフェで……)
心の中でそっと自分に言い聞かせると、胸の動揺はすーっと引いていった。
その日までは絶対にボロを出さず、波風を立てずにこの場をやり過ごそう——。
そう腹をくくると、自然と落ち着いて柊に向き合うことができた。
すると、柊は少しカッコつけるように胸を張り、自信ありげな口調で言った。
「いろいろとあるかもしれないけどさ、うまくやっていこうな。俺、一度別れたら復縁とかありえないと思ってるからさ。壊れたものは元に戻らないというかさ……」
少し上から目線で、ドヤ顔で放たれたその言葉。
(一度別れたら復縁はありえない……壊れたものは、元に戻らない……)
胸の中で、その言葉が冷たく反響する。
(……そうだね、柊。壊れたものは、もう二度と元には戻らない。……私たちの関係も、もうとっくに壊れてるんだよ)
心の中で静かにそう呟きながら、私は「……そっか」と小さく微笑んで頷いた。
片付けを終えたあと、柊は「家まで送るよ」と言って、再び私を助手席に乗せて車を走らせてくれた。
夕暮れ時の街並みを走り抜ける車内。
助手席で夕空を見つめながら、やがて車が私の自宅前に止まる。
「送ってくれてありがとう」と伝えて車を降り、遠ざかっていく柊の車の赤いテールランプを見送りながら、冷たい春風に髪を揺らされた。
(……四月になったら、ちゃんと終わらせる。もう絶対に、情に流されたりしない)
教科書も、時間割も、『学生』という肩書きもない。
どこへ進むのも自分次第という、自由で少し恐ろしい『大人』の入り口に、私たちは今、立っている。
明日からは、いよいよ社会人としての新しい春が始まる。
大好きな仲間たちとの絆と, 自分の人生を自分で選ぶ静かな覚悟を胸に抱いて、私は未知なる新しい未来への扉を静かに開けようとしていたーー。
その時、ポケットの中でスマホが短く震えた。
『次に会うとき、楽しみにしてろよ。柚那に渡したいものあるから』
画面に浮かぶ身勝手なメッセージに、背筋にすっと冷たい風が吹き抜けた。
壊れた関係に冷めた決意を抱く柚那。社会人になった二人の関係はどうなってしまうのか……? 柚那の新しい一歩を応援してくれる方は、ぜひ【本棚登録】や【いいね♡】をお願いします✨
約束通り、私と優奈、愛、沙莉の女子四人は、一泊二日の温泉卒業旅行へと出かけていた。
湯気の立ち込める露天風呂に浸かりながら、辛かった実習や国家試験に向けた勉強漬けの日々を振り返る。
「本当にいろいろあったけど、みんなで合格できてよかったよね」
「本当だよ! 柚那がいなかったら私、途中で投げ出してたかも!」
夜、旅館の部屋で色鮮やかな浴衣を着て布団を並べ、お菓子をつまみながら遅くまで語り合った。
ふと、隣に横になった優奈が真面目な顔になり、私を静かに見つめてきた。
「柚那。社会人になって柊がひとり暮らしを始めたら……絶対に、無理しすぎちゃダメだからね?」
「……うん。ありがとう、優奈」
親友の温かい心配が胸に染み渡る。もう情で流されたりはしない、ちゃんと自分の気持ちに向き合って切り出すんだと、心の中で優奈に誓った。
ニ年間、私の一番近くで笑い、支えてくれた大切な仲間たちとの思い出が、心の深い場所に優しく刻まれていった。
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女子旅から戻ったあと、今度は卒業式で約束していた柊との二人きりの卒業旅行へと向かった。
柊の車で春風が心地よい観光地をドライブし、美味しいものを食べて過ごす。
柊は終始ご機嫌で、楽しそうにハンドルを握っていた。
(……早く無事に終わってほしい……)
助手席で流れる景色を見つめながら、私は心の中でそう呟いた。
ここで余計なことを言って柊を不機嫌にさせ、ドライブ中に機嫌を損ねられたら面倒でたまらない。
私は彼を刺激しないよう、表面上は笑顔を合わせて無難にやり過ごすことだけに集中していた。
旅行の帰りにそのまま向かったのは、四月から柊がひとり暮らしを始めるという新居だった。
まだダンボールが幾つも積まれた小さな部屋。
二人でダンボールを開けて荷物を整理したり、家具の配置を考えたりと、引っ越しの準備を手伝う。
「柚那、手伝ってくれてサンキュ。助かったわ」
ひと通り作業を終え、畳んだダンボールの脇に並んで腰を下ろし、買ってきた缶ジュースで乾杯する。
一口飲んで、まだ何もないガランとした部屋を見回していた柊が、ふっと誇らしげに口角を上げた。
「まあ、俺たちもとうとう社会人だな。自分だけの部屋って思うと、なんか大人になった感じがしてワクワクするわ」
「そうだね。素敵な部屋になるといいね」
人懐っこい笑顔で私を見つめ、どこか余裕そうに缶を弄ぶ柊。
(……大丈夫。焦らなくていい。決着をつけるのは、社会人になってから人目のたくさんあるカフェで……)
心の中でそっと自分に言い聞かせると、胸の動揺はすーっと引いていった。
その日までは絶対にボロを出さず、波風を立てずにこの場をやり過ごそう——。
そう腹をくくると、自然と落ち着いて柊に向き合うことができた。
すると、柊は少しカッコつけるように胸を張り、自信ありげな口調で言った。
「いろいろとあるかもしれないけどさ、うまくやっていこうな。俺、一度別れたら復縁とかありえないと思ってるからさ。壊れたものは元に戻らないというかさ……」
少し上から目線で、ドヤ顔で放たれたその言葉。
(一度別れたら復縁はありえない……壊れたものは、元に戻らない……)
胸の中で、その言葉が冷たく反響する。
(……そうだね、柊。壊れたものは、もう二度と元には戻らない。……私たちの関係も、もうとっくに壊れてるんだよ)
心の中で静かにそう呟きながら、私は「……そっか」と小さく微笑んで頷いた。
片付けを終えたあと、柊は「家まで送るよ」と言って、再び私を助手席に乗せて車を走らせてくれた。
夕暮れ時の街並みを走り抜ける車内。
助手席で夕空を見つめながら、やがて車が私の自宅前に止まる。
「送ってくれてありがとう」と伝えて車を降り、遠ざかっていく柊の車の赤いテールランプを見送りながら、冷たい春風に髪を揺らされた。
(……四月になったら、ちゃんと終わらせる。もう絶対に、情に流されたりしない)
教科書も、時間割も、『学生』という肩書きもない。
どこへ進むのも自分次第という、自由で少し恐ろしい『大人』の入り口に、私たちは今、立っている。
明日からは、いよいよ社会人としての新しい春が始まる。
大好きな仲間たちとの絆と, 自分の人生を自分で選ぶ静かな覚悟を胸に抱いて、私は未知なる新しい未来への扉を静かに開けようとしていたーー。
その時、ポケットの中でスマホが短く震えた。
『次に会うとき、楽しみにしてろよ。柚那に渡したいものあるから』
画面に浮かぶ身勝手なメッセージに、背筋にすっと冷たい風が吹き抜けた。
壊れた関係に冷めた決意を抱く柚那。社会人になった二人の関係はどうなってしまうのか……? 柚那の新しい一歩を応援してくれる方は、ぜひ【本棚登録】や【いいね♡】をお願いします✨
