君の隣。 〜一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、出会って10年、ずっと私だけを思い続けてくれた「親友の元彼」でした〜

勇斗との電話の余韻を抱えたまま、日常が過ぎていった頃。

高校2年の頃から明里と一緒に続けているアルバイト。
専門学生になった今もこうしてシフトを合わせて通っているそのバイト先のスタッフルームで、制服のままドリンクを飲んでいたときのこと。

「ねぇ明里……成人式の日、本当はみんなと二次会行きたかったんだよね」

「えっ、なんで行かなかったの?」

「柊がさ……『二次会なんて男も来るんだから、行ってたらマジで怒ってた』って言われちゃって……」

「はぁ!? 何それ、束縛激しすぎでしょ……」

明里に呆れられながらも愚痴を聞いてもらっているうちに、話題は自然と高校の頃のことへと広がっていき、「最近、誰かに会ったりした?」と話していると、

「そういえばさ、勇斗とは連絡取ったり会ったりしてるの?」

と、ふと明里から尋ねられ、私は思い出したように言葉を返した。

「あ、そう!そう! この前ね、勇斗と将也と3人で久しぶりに会ってドライブ行ったんだ〜!」

「へえ、将也も一緒に3人でか。相変わらずなんだかんだ続いてるんだね」

「うん! 将也も元気そうだったよ! ……あ、そろそろ休憩終わるね。試験の勉強もいよいよ追い込みだし、お互い体調崩さないように頑張ろうね」

「本当だね、お互い頑張ろ!」

そんな会話を交わしたあの日から、季節は一気に冬へと加速していった。

猛勉強の日々を経て、私たちは無事にそれぞれの試験を終え、私は国家試験の合格を果たした。

内定をもらっていたクリニックへの就職も正式に決まり、専門学校生活もいよいよ終わりを迎えようとしていた頃。

合格祝いも兼ねて柊と過ごすため、私は自分の車を運転して彼の地元へと向かった。

柊の自宅近くのコインパーキングに車を停め、買い出しに行ったりご飯を食べたりして、久しぶりに恋人らしい穏やかな時間を楽しんだ。

夕方からは柊の部屋へ上がり、テレビを見ながら二人でまったりと過ごす。

ソファで肩を寄せ合い、流されるように自然と身体を重ねた。

昼間の優しい笑顔や、肌を重ねている時の甘い熱。

「やっぱり柊は根は優しいんだ」と自分に言い聞かせるけれど、ふとした瞬間にどこか心が満たされきらない感覚が残るのは相変わらずだった。

事が終わると——。

「……あー、眠……」

柊は私を気遣う言葉をかけることもなく、そのまま背を向けて自分のベッドで勝手に目を閉じてしまった。

時計の針を見ると、すでに夜の23時を回っている。

ここから自宅までは、車で50分ほどかかる。

夜道は暗くて怖いし、家まで送ってほしいとまでは言わないけれど、せめてパーキングまでは一緒に歩いて見送ってほしかった。

「ねぇ、柊……? そろそろ帰るね。パーキングまで一緒に来てよ」

ベッドの端に腰かけ、柊の肩をそっと揺すった。

「……んー……後で……」

「後でって、もう23時過ぎてるんだよ? パーキングまで暗いし、早く行かないとどんどん遅くなっちゃうよ」

「ねぇ、本当に起きないなら一人で帰るよ!?」

少し声を強めて肩を揺らすと、柊は煩わしそうに大きな溜息をつき、掛け布団を頭までかぶって完全に背を向けてしまった。

何度起こしても、返事すらしてくれない。

日中はあんなに楽しく笑い合っていたのに、自分の都合ばかりを優先する彼の態度に、私の中で痺れと切なさが限界を迎えていた。

「……もういい」

ポツリと呟いて部屋を出て、静かにドアを閉めた。 一人で暗い階段を降り、玄関で靴を履いていると、ガチャリとリビングのドアが開いた。

「今から帰るの? あれ? 柊は?」

顔を出したのは、柊のお母さんだった。

「……あ、寝ちゃってて起きないんです。遅くまでお邪魔しました」

申し訳なさそうに頭を下げる私に、お母さんはハッとしたように目を丸くし、慌てて上着を羽織った。

「今日、車だったわよね? もうこんなに夜遅いし暗いから、パーキングまで私が送るわ」

「えっ、そんな! 大丈夫です、一人で歩けますから……!」

「駄目よ、こんな時間に女の子一人で歩かせるわけにいかないでしょ。柊がごめんなさいね、あの子ったら本当に……」

お母さんは申し訳なさそうにそう言いながら、夜の暗い道をパーキングまで一緒に歩いて送ってくれた。

「帰り、気をつけてね」

「はい……ありがとうございます。お邪魔しました」

車に乗り込み、バックミラー越しにお母さんの小さくなっていく後ろ姿を見送りながら、私はハンドルを握る手にギュッと力を込めた。

彼氏には雑に扱われて放置されたのに、その彼氏のお母さんに気を遣わせて夜道を送ってもらっている自分。

夜の国道を一人、車で走りながら、目元からボロボロと涙が溢れ出してきた。

自宅に戻り、静まり返った自室のベッドに倒れ込む。

暗い天井を見つめる私の胸の中に残ったのは、どこまでも冷たく、届かない温もりの虚しさだけだった。