「……それで? 君たち、付き合ったりしないの?」
後部座席から体を乗り出してきた将也の不意打ちに、車内の空気が一瞬で固まった。
「ちょっと、将也……っ! なに言って——」
私が慌てて声を裏返すと、運転席の勇斗がどこか苦笑いを交えながら、落ち着いた声で将也を制した。
「バカ、将也。変なこと聞くなよ。柚那には……彼氏がいるんだから」
「あ、そっか。いや、相変わらずお似合いだからさ」
将也はおどけたように肩をすくめたけれど、私の胸の奥はドキドキと激しく波打っていた。
彼氏がいる——。柊の存在を勇斗の前で突きつけられたようで、なんだか急に胸が苦しくなる。
「……あ、私もう降りるね! ふたりとも、今日は送ってくれてありがとう!」
動揺を隠すようにそう声をかけると、助手席のドアを開けた。冷たい冬の夜風が、火照った頬を優しく撫でる。
車を降りて手を振ると、将也が「またな〜!」と手を振り、勇斗も優しく目元を和ませてハンドルを切った。
夜の静けさの中へ去っていく車の赤いテールランプを、私はいつまでも見つめていた。
ーーーーーーーーーー
自分の部屋に戻り、コートを脱いでほっと一息ついた時のことだった。
静まり返った部屋の中で、机の上のスマホがぶるぶると小さく震えた。
画面を見ると、再び『勇斗』の名前が表示されている。
(……え、勇斗? さっき別れたばかりなのに……)
ドクン、と胸の奥が跳ねるのを押さえながら、通話ボタンをスワイプした。
「……もしもし? 勇斗、どうしたの?」
受話器越しに響いてきたのは、将也を送り届けたあとの、どこか静かで低い彼の声だった。
「今、将也送っていったよ。今日は急だったのに、出てきてくれてありがとな」
「ううん、すごく楽しかったよ! 送ってくれてありがとう」
私の言葉に、勇斗は受話器の向こうで小さく息を吐いた。
それから、少しの間。静かな沈黙が流れたあと、彼がぽつりと、探るような声で言葉を繋いだ。
「……あのさ。本当は、卒業式の日の約束通り……ニ人きりで、飲みに行きたかったんだけどさ」
「……っ」
息が、止まりそうになった。
「柚那、彼氏いるだろ? 2人きりで夜誘ったら迷惑になるかと思って……だから、将也も誘ってドライブにしたんだ」
ドクン、ドクンと、耳の奥で自分の心臓がうるさいほど大きく跳ね上がる。
勇斗は、あの日の約束を忘れてなんていなかった。
高校の卒業式の日、夕暮れの自販機の前で「二十歳になったら二人で酒飲みに行こうな」と言ってくれた、あの真っ直ぐな約束を——。
私に柊という彼氏がいることを知っているからこそ、私の立場を一番に気遣い、二人きりを避けて将也を挟んでくれたのだ。
どこまでも自分を後回しにして、私の幸せと立場を守ろうとしてくれる彼の優しさが、痛いくらいに胸に染み込んでくる。
(勇斗……っ、覚えててくれたんだ……)
込み上げてくる熱いものを必死に飲み込んでいると、受話器の向こうで勇斗が照れくさそうに笑った気配がした。
「……じゃ、遅いし早く寝ろよ。おやすみ」
「……うん。おやすみ、勇斗」
ツーツーと通話が切れ、画面が暗転する。
静まり返った暗い部屋の中で、私は熱を持ったスマホを、そっと自分の胸元に押し当てた。
耳の奥に残る彼の声と、胸の奥のざわつきが、いつまでも収まってくれなかった。
後部座席から体を乗り出してきた将也の不意打ちに、車内の空気が一瞬で固まった。
「ちょっと、将也……っ! なに言って——」
私が慌てて声を裏返すと、運転席の勇斗がどこか苦笑いを交えながら、落ち着いた声で将也を制した。
「バカ、将也。変なこと聞くなよ。柚那には……彼氏がいるんだから」
「あ、そっか。いや、相変わらずお似合いだからさ」
将也はおどけたように肩をすくめたけれど、私の胸の奥はドキドキと激しく波打っていた。
彼氏がいる——。柊の存在を勇斗の前で突きつけられたようで、なんだか急に胸が苦しくなる。
「……あ、私もう降りるね! ふたりとも、今日は送ってくれてありがとう!」
動揺を隠すようにそう声をかけると、助手席のドアを開けた。冷たい冬の夜風が、火照った頬を優しく撫でる。
車を降りて手を振ると、将也が「またな〜!」と手を振り、勇斗も優しく目元を和ませてハンドルを切った。
夜の静けさの中へ去っていく車の赤いテールランプを、私はいつまでも見つめていた。
ーーーーーーーーーー
自分の部屋に戻り、コートを脱いでほっと一息ついた時のことだった。
静まり返った部屋の中で、机の上のスマホがぶるぶると小さく震えた。
画面を見ると、再び『勇斗』の名前が表示されている。
(……え、勇斗? さっき別れたばかりなのに……)
ドクン、と胸の奥が跳ねるのを押さえながら、通話ボタンをスワイプした。
「……もしもし? 勇斗、どうしたの?」
受話器越しに響いてきたのは、将也を送り届けたあとの、どこか静かで低い彼の声だった。
「今、将也送っていったよ。今日は急だったのに、出てきてくれてありがとな」
「ううん、すごく楽しかったよ! 送ってくれてありがとう」
私の言葉に、勇斗は受話器の向こうで小さく息を吐いた。
それから、少しの間。静かな沈黙が流れたあと、彼がぽつりと、探るような声で言葉を繋いだ。
「……あのさ。本当は、卒業式の日の約束通り……ニ人きりで、飲みに行きたかったんだけどさ」
「……っ」
息が、止まりそうになった。
「柚那、彼氏いるだろ? 2人きりで夜誘ったら迷惑になるかと思って……だから、将也も誘ってドライブにしたんだ」
ドクン、ドクンと、耳の奥で自分の心臓がうるさいほど大きく跳ね上がる。
勇斗は、あの日の約束を忘れてなんていなかった。
高校の卒業式の日、夕暮れの自販機の前で「二十歳になったら二人で酒飲みに行こうな」と言ってくれた、あの真っ直ぐな約束を——。
私に柊という彼氏がいることを知っているからこそ、私の立場を一番に気遣い、二人きりを避けて将也を挟んでくれたのだ。
どこまでも自分を後回しにして、私の幸せと立場を守ろうとしてくれる彼の優しさが、痛いくらいに胸に染み込んでくる。
(勇斗……っ、覚えててくれたんだ……)
込み上げてくる熱いものを必死に飲み込んでいると、受話器の向こうで勇斗が照れくさそうに笑った気配がした。
「……じゃ、遅いし早く寝ろよ。おやすみ」
「……うん。おやすみ、勇斗」
ツーツーと通話が切れ、画面が暗転する。
静まり返った暗い部屋の中で、私は熱を持ったスマホを、そっと自分の胸元に押し当てた。
耳の奥に残る彼の声と、胸の奥のざわつきが、いつまでも収まってくれなかった。
