君の隣。 〜一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、出会って10年、ずっと私だけを思い続けてくれた「親友の元彼」でした〜

放課後の不機嫌な顔で教室を出て行った柊の背中が、どうしても頭から離れなかった。

自分の部屋のベッドに横たわりながら、私は暗い天井を見つめて静かに溜息をついた。

(理由も言ったのに……私、そんなに酷いことしたのかな)

1週間の緊張続きで疲れ切り、自分の家で休みたかっただけなのに。自分の思い通りにならなかったからといって、あんな冷たい態度をとられてしまうなんて。

悲しさと同時に、拭いきれないモヤモヤが胸の奥に重く溜まっていた。

その時、机の上のスマホがポコンと音を立てて光った。

画面を開くと、柊からのLINEだった。

『今日はごめん。疲れてるって言ってたのに、自分の都合押しつけちゃって……俺がわがまま言った』

画面に並ぶ文字を見つめながら、私は返信を打つ手を止めてしまった。
理由を理解して謝ってくれたのは分かったけれど、一度傷ついた心がすぐには晴れなくて、私はそのままスマホを伏せて目を閉じた。

ーーーーーーーーーー

翌朝、少し重い足取りで学校へと向かった。

ガラリと教室の扉を開けると、柊はすでに自分の席に着いていた。
私の姿を認めた瞬間、彼は弾かれたように立ち上がり、まっすぐこちらへ駆け寄ってきた。

「柚那! 昨日は本当にごめん!」

クラスの生徒たちがちらりと視線を向けるのも気にせず、柊は申し訳なさそうに眉を下げて頭を下げる。

「……ううん。私も、もう少し言い方があったかも。ごめんね」

私がそう答えると、柊はホッとしたように大きな息を吐き、私の隣の空いている席に腰を下ろした。

「ううん、柚那は悪くないよ。研修で疲れてるの分かってたのに、俺が舞い上がりすぎてたんだ」

柊は少し申し訳なさそうに視線を泳がせながら、声を落として言葉を続けた。

「実はさ……無事に内定も取れたから、卒業したらクリニックの近くでひとり暮らしを始めることにしたんだ。昨日はその話を、柚那に一番に伝えたくて」

「え……? ひとり暮らし……?」

思いがけない言葉に、私は驚いて目を見開いた。

「そう。だからさ……ひとり暮らし始めたら、柚那に合鍵、貰ってほしいんだよね」

まっすぐ私を見つめて言った柊。

合鍵――。

その言葉に、胸の中のモヤモヤが少しだけ和らぐのを感じた。
けれど、昨日のあからさまな不機嫌さと冷たい態度が、完全に頭から消え去ったわけではなかった。

「……うん。ありがとう、柊」

私が頷くと、柊はいつもの人懐っこい満面の笑みを咲かせた。

昨日の刺々しさが嘘のように、優しい柊に戻っている。

私を思って謝ってくれた彼に笑顔を返しつつも、胸の奥に残った小さな違和感の粒を、私は静かに抱え直していた。