実習を終えた学校は、どこかホッとした空気が漂っていた。
自分で決めて進んだ医療の道だったけれど、現場の想像以上の厳しさに触れて、心身ともにすっかり削られていた私は、自分の将来について小さく迷いを抱き始めていた。
(私、本当にこの仕事を続けていけるのかな……)
そんな漠然とした不安を抱えながらも、週末に柊と過ごした夜の情景や、拭いきれない胸の奥の冷たさを思い出し、私はそっと胸を押さえた。
ーーーーーーーーーー
ある日の夜。
自分の部屋のベッドで横になり、ぼんやりと天井を見つめていた時だった。
机の上に置いていたスマホが、ぽこっと可愛らしい通知音を鳴らした。
画面を覗き込むと、そこに表示された名前に、ドクンと心臓が小さく跳ねた。
『勇斗』
彼氏ができたことを報告したあの日、「連絡を控える」と言って気遣ってくれた勇斗。
それ以来、途絶えていた彼からのLINEだった。
『久しぶり〜 今何してる? 俺いま将也と一緒にいるんだけど出てこられる?』
画面に並ぶ飾らない文字を見て、胸の奥がじんわりと熱くなる。
将也(まさや)は、小学校は別だったけれど、保育園から中学、高校までずっと一緒だった私の幼馴染だ。
高校2年の時に勇斗と将也は同じクラスになって、それから二人はすっかり意気投合し、今は違う専門学校に通っているけれど、同じ医療系の道を目指す仲間だった。
久しぶりに勇斗の顔が見たい、会って話したい——そんな素直な気持ちが、一瞬だけ胸をかすめる。
(でも……私には、柊という彼氏がいるんだから。いくら昔馴染みでも、夜遅くに急に会いに行くなんて……絶対ダメだよね)
ざわつく心を落ち着かせるように、私は笑い混じりの文面を打ち込んだ。
『久しぶり! 今もうスッピンだし、パジャマだよ!笑』
送信してすぐ、勇斗から笑い混じりの返信が届く。
『化粧してない顔なんて、学生の時に散々見てるだろ笑 今日は急すぎたな、また誘うよ』
変わらない彼の距離感と気遣いに、思わずクスッと笑みがこぼれた。
それから、他愛のないLINEのやり取りが何通か続いた。
お互いの学校の様子や、最近の近況。
会話が一区切りつきかけた頃、勇斗からふいに尋ねられた。
『彼氏とはどう?』
画面を見つめながら、私は一瞬だけ言葉に詰まった。
実習中の優しさや、車内での甘い時間。そして、その裏にある微かな虚しさ。
けれど、それを勇斗に打ち明けるわけにはいかない。
『なんだかんだ仲良くやってるよ。勇斗は最近どうなの? 彼女できた?笑』
彼女なんていないだろう、という軽い冗談のつもりだった。
けれど、数十秒の空白のあと返ってきた言葉は、私の予想を大きく裏切るものだった。
『俺は… 彼女できたよ。まあ、色々あるけどな笑』
液晶画面の文字を、私は何度もまばたきしながら見つめ返した。
(え……彼女、できたんだ……)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるような不思議な痛みを覚える。
勇斗が誰かのものになったという事実。自分には柊という彼氏がいるはずなのに、理由のわからない波紋が、心の中に静かに広がり始めていた。
(動揺しちゃだめだ。私には柊がいるんだから……)
自分を言い聞かせるように、私は画面をタップした。
『そうなんだ。なんか彼女さんに悪いし、もうそろそろ寝ようかな』
自制するように送った言葉に対し、勇斗からの返信はすぐに届いた。
『別に関係ないよ。遅くまでごめんな、おやすみ』
『おやすみ』と返してスマホを伏せ、私は暗い部屋の中でそっと目を閉じた。
静まり返った部屋の中で、胸の奥のざわつきだけが、いつまでも消えてくれなかった。
自分で決めて進んだ医療の道だったけれど、現場の想像以上の厳しさに触れて、心身ともにすっかり削られていた私は、自分の将来について小さく迷いを抱き始めていた。
(私、本当にこの仕事を続けていけるのかな……)
そんな漠然とした不安を抱えながらも、週末に柊と過ごした夜の情景や、拭いきれない胸の奥の冷たさを思い出し、私はそっと胸を押さえた。
ーーーーーーーーーー
ある日の夜。
自分の部屋のベッドで横になり、ぼんやりと天井を見つめていた時だった。
机の上に置いていたスマホが、ぽこっと可愛らしい通知音を鳴らした。
画面を覗き込むと、そこに表示された名前に、ドクンと心臓が小さく跳ねた。
『勇斗』
彼氏ができたことを報告したあの日、「連絡を控える」と言って気遣ってくれた勇斗。
それ以来、途絶えていた彼からのLINEだった。
『久しぶり〜 今何してる? 俺いま将也と一緒にいるんだけど出てこられる?』
画面に並ぶ飾らない文字を見て、胸の奥がじんわりと熱くなる。
将也(まさや)は、小学校は別だったけれど、保育園から中学、高校までずっと一緒だった私の幼馴染だ。
高校2年の時に勇斗と将也は同じクラスになって、それから二人はすっかり意気投合し、今は違う専門学校に通っているけれど、同じ医療系の道を目指す仲間だった。
久しぶりに勇斗の顔が見たい、会って話したい——そんな素直な気持ちが、一瞬だけ胸をかすめる。
(でも……私には、柊という彼氏がいるんだから。いくら昔馴染みでも、夜遅くに急に会いに行くなんて……絶対ダメだよね)
ざわつく心を落ち着かせるように、私は笑い混じりの文面を打ち込んだ。
『久しぶり! 今もうスッピンだし、パジャマだよ!笑』
送信してすぐ、勇斗から笑い混じりの返信が届く。
『化粧してない顔なんて、学生の時に散々見てるだろ笑 今日は急すぎたな、また誘うよ』
変わらない彼の距離感と気遣いに、思わずクスッと笑みがこぼれた。
それから、他愛のないLINEのやり取りが何通か続いた。
お互いの学校の様子や、最近の近況。
会話が一区切りつきかけた頃、勇斗からふいに尋ねられた。
『彼氏とはどう?』
画面を見つめながら、私は一瞬だけ言葉に詰まった。
実習中の優しさや、車内での甘い時間。そして、その裏にある微かな虚しさ。
けれど、それを勇斗に打ち明けるわけにはいかない。
『なんだかんだ仲良くやってるよ。勇斗は最近どうなの? 彼女できた?笑』
彼女なんていないだろう、という軽い冗談のつもりだった。
けれど、数十秒の空白のあと返ってきた言葉は、私の予想を大きく裏切るものだった。
『俺は… 彼女できたよ。まあ、色々あるけどな笑』
液晶画面の文字を、私は何度もまばたきしながら見つめ返した。
(え……彼女、できたんだ……)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるような不思議な痛みを覚える。
勇斗が誰かのものになったという事実。自分には柊という彼氏がいるはずなのに、理由のわからない波紋が、心の中に静かに広がり始めていた。
(動揺しちゃだめだ。私には柊がいるんだから……)
自分を言い聞かせるように、私は画面をタップした。
『そうなんだ。なんか彼女さんに悪いし、もうそろそろ寝ようかな』
自制するように送った言葉に対し、勇斗からの返信はすぐに届いた。
『別に関係ないよ。遅くまでごめんな、おやすみ』
『おやすみ』と返してスマホを伏せ、私は暗い部屋の中でそっと目を閉じた。
静まり返った部屋の中で、胸の奥のざわつきだけが、いつまでも消えてくれなかった。
