あのケーキ屋さんでの出来事から数日。
プレッシャーで押し潰されそうだった2週間の実習もなんとか乗り切り、私はようやく解放感に包まれた週末を迎えていた。
「実習、本当にお疲れさま。ドライブ行こうぜ」
土曜日の夜、柊からのお誘いに、私は胸を弾ませながら彼の助手席へと乗り込んだ。
車は夜の街を抜け、緩やかな坂道を上っていく。
たどり着いたのは、付き合うきっかけになった、あの小高い丘の上の駐車場だった。
フロントガラス越しに見下ろす夜景は、街の灯りがきらきらと輝いていて息をのむほど美しかった。
「すごい……やっぱり綺麗だね」
「だろ? 実習が終わったら、絶対に柚那をここに連れてきたかったんだ」
ブルンと低く響いていたエンジンが切られると、同時に車内に流れていた音楽がふっと消え、しんと静まり返った。
ほのかに漂う彼の車の芳香剤の匂い。
暗闇の中で、隣に座る柊の気配が急に近く感じられて、私の胸はトクンと小さく音を立てた。
「……こっち見て?」
顎を優しくすくい上げられ、振り返った瞬間、彼の顔がすぐ近くにあった。
夜景の光をかすかに映した柊の瞳が、じっと私を見つめている。
重なる唇。
いつもより少し長くて、熱を帯びたキスに、私の頭はぼんやりとのぼせていくようだった。
「……ねぇ、ここで……柚那のこと、好きにさせて?」
耳元で囁かれたその言葉に、息が止まりそうになる。
部屋に行くわけでも、どこかのホテルに入るわけでもない。
柊の手が迷いなく動いて、ガチャリと音を立てて、私の助手席のシートが深く倒された。
「何緊張してんの? 大丈夫だって……」
倒れたシートの上で、覆いかぶさってくる柊の影。
服の中に差し込まれる手のひらの熱さと、逃げ場のない狭い車内の息苦しさに、私はキュッと自分の服の裾を握りしめた。
好きな人と結ばれるのは、本当はすごく幸せなはずなのに。
彼のテリトリーである狭い車内の中で流れていく時間は、どこか落ち着かなくて、現実感がなかった。
「……本当にかわいいな。……かわいすぎ」
熱い吐息とともに囁かれる言葉に、静かに重なっていく体温。
フロントガラスの向こうで揺れる夜景の光と、彼の息遣いだけが車内に響いていた。
ーーーーーーーーーー
どれくらいの時間が経っただろう。
事が終わったあと、柊は倒れたシートの上で、愛おしそうに私をしばらく抱きしめてくれた。
「柚那、本当にかわいかった。……よし、送っていくね」
私の頭を優しく撫でると、柊はシートを起こし、私のシートも元に戻してくれた。
エンジンがかかり、柊が少しだけ運転席の窓を開けると、ひんやりとした秋の夜風がスッと吹き込んで火照った頬を撫でた。
助手席で乱れた服を整えながら、私は流れていく夜の窓の外をじっと見つめた。
(好きな人と、特別になれたはずなのに……)
夜景を眺めていた時の、あの純粋な胸の高鳴りとは少し違う。
甘い言葉をもらって結ばれたはずなのに、胸の奥にぽっかりと冷たい風が吹き抜けるような、拭いきれない微かな虚しさが残っていた。
暗い車窓に映る自分の顔を見つめながら、私は静かに小さな息を吐き出した。
プレッシャーで押し潰されそうだった2週間の実習もなんとか乗り切り、私はようやく解放感に包まれた週末を迎えていた。
「実習、本当にお疲れさま。ドライブ行こうぜ」
土曜日の夜、柊からのお誘いに、私は胸を弾ませながら彼の助手席へと乗り込んだ。
車は夜の街を抜け、緩やかな坂道を上っていく。
たどり着いたのは、付き合うきっかけになった、あの小高い丘の上の駐車場だった。
フロントガラス越しに見下ろす夜景は、街の灯りがきらきらと輝いていて息をのむほど美しかった。
「すごい……やっぱり綺麗だね」
「だろ? 実習が終わったら、絶対に柚那をここに連れてきたかったんだ」
ブルンと低く響いていたエンジンが切られると、同時に車内に流れていた音楽がふっと消え、しんと静まり返った。
ほのかに漂う彼の車の芳香剤の匂い。
暗闇の中で、隣に座る柊の気配が急に近く感じられて、私の胸はトクンと小さく音を立てた。
「……こっち見て?」
顎を優しくすくい上げられ、振り返った瞬間、彼の顔がすぐ近くにあった。
夜景の光をかすかに映した柊の瞳が、じっと私を見つめている。
重なる唇。
いつもより少し長くて、熱を帯びたキスに、私の頭はぼんやりとのぼせていくようだった。
「……ねぇ、ここで……柚那のこと、好きにさせて?」
耳元で囁かれたその言葉に、息が止まりそうになる。
部屋に行くわけでも、どこかのホテルに入るわけでもない。
柊の手が迷いなく動いて、ガチャリと音を立てて、私の助手席のシートが深く倒された。
「何緊張してんの? 大丈夫だって……」
倒れたシートの上で、覆いかぶさってくる柊の影。
服の中に差し込まれる手のひらの熱さと、逃げ場のない狭い車内の息苦しさに、私はキュッと自分の服の裾を握りしめた。
好きな人と結ばれるのは、本当はすごく幸せなはずなのに。
彼のテリトリーである狭い車内の中で流れていく時間は、どこか落ち着かなくて、現実感がなかった。
「……本当にかわいいな。……かわいすぎ」
熱い吐息とともに囁かれる言葉に、静かに重なっていく体温。
フロントガラスの向こうで揺れる夜景の光と、彼の息遣いだけが車内に響いていた。
ーーーーーーーーーー
どれくらいの時間が経っただろう。
事が終わったあと、柊は倒れたシートの上で、愛おしそうに私をしばらく抱きしめてくれた。
「柚那、本当にかわいかった。……よし、送っていくね」
私の頭を優しく撫でると、柊はシートを起こし、私のシートも元に戻してくれた。
エンジンがかかり、柊が少しだけ運転席の窓を開けると、ひんやりとした秋の夜風がスッと吹き込んで火照った頬を撫でた。
助手席で乱れた服を整えながら、私は流れていく夜の窓の外をじっと見つめた。
(好きな人と、特別になれたはずなのに……)
夜景を眺めていた時の、あの純粋な胸の高鳴りとは少し違う。
甘い言葉をもらって結ばれたはずなのに、胸の奥にぽっかりと冷たい風が吹き抜けるような、拭いきれない微かな虚しさが残っていた。
暗い車窓に映る自分の顔を見つめながら、私は静かに小さな息を吐き出した。
