君の隣。 〜一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、出会って10年、ずっと私だけを思い続けてくれた「親友の元彼」でした〜

あの日の彼の不穏な影にどこか引っかかりを覚えたまま、夏が過ぎて秋が深まり、私たちの専門学校生活の中で最大の山場でもある「実習」が始まった。

出席番号順で振り分けられた4人のグループ。
たまたま席が隣だった縁もあって、私は柊と同じグループで2週間の実習に臨むことになった。

毎朝、いつもより早い電車に揺られて実習先へと通う日々。
自宅から遠いという物理的な疲れも相当なものだったけれど、それ以上に私を追い詰めたのは、現場の独特な緊張感と、想像を超える厳しい実習内容だった。

自分で決めて進んだ道のはずなのに、指導を受けるたびに「本当に私、この仕事に向いているのかな……」と自信を失っていく。

(泣いちゃだめだ。みんな頑張ってるんだから……)

唇を強く噛み締め、必死に弱音を飲み込む毎日。
疲労とプレッシャーで、私の心と体はすっかり限界を迎えていた。

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実習も、残すところあと2日となったある日の帰り道。

夕暮れの街並みを、私は重い足取りで歩いていた。
隣を歩く柊もさすがに疲れた顔をしていたけれど、ふと足を止め、私を見下ろして明るく声をかけてくれた。

「おつかれー。あと実習も2日だな!」

「……うん。お疲れさま」

絞り出すような私の声に、柊がふっと目を細める。

「さっきさ、ここの通りに可愛いケーキ屋見つけたんだよ。そこで甘いものでも食べて、残りの2日頑張って乗り切ろうぜ」

「え……ケーキ屋さん……?」

「そう! 全然気がつかなかっただろ? ほら、行こうぜ」

柊はそう言うと、私の返事を待たずに、促すように小さな洋菓子店のドアを開けてくれた。

暖色のライトに照らされた温かい店内には、甘くて香ばしい焼き菓子の匂いが漂っている。
ショーケースに並ぶ鮮やかなケーキを選び、奥の小さなカフェスペースの席に二人で腰を下ろした。

運ばれてきた甘いケーキを一口、口に運ぶ。

その瞬間、ここ数日間ずっとピンと張り詰めていた心の糸が、ぷつりと切れてしまった。

「あ……」

ポロポロと、堪えていたはずの涙が目から溢れ出して、テーブルの上にポタリと落ちた。

一度溢れ出したら、もう止められなかった。
自分の不甲斐なさ、実習の辛さ、将来への不安……抑え込んでいた感情が、ボロボロと涙になって溢れ出てくる。

「ごめん、ごめんね……」

みっともなく声まで震わせて泣いてしまう私を見て、柊は驚く風でもなく、優しく目元を緩めた。

「実習、辛いよなー。……泣いてる柚那もかわいいけど、無理すんなよ? 心配になるわ」

柊はテーブル越しに身を乗り出すと、申し訳なさそうにする私の手を、そっと包み込むように握ってくれた。

その温かい手のひらの温もりに、私の胸の奥がキュッと熱くなる。

(……やっぱり、柊は優しいんだ)

「……うん。ありがとう、柊」

涙を拭って笑顔を見せると、柊は嬉しそうにニカッと笑ってくれた。

柊のくれた小さな優しさに救われながら、私は涙をぐっと飲み込んで、小さく頷いていた。