専門学校に入学してから、あっという間に季節は巡り、汗ばむような夏がやってきた。
柊と付き合い始めてから、2ヶ月ほどが経った頃のことだ。
ある日の放課後。
いつもなら学校が終わると電車で柊の家へ行き、そのまま彼の車でドライブに出かけたり、自宅まで送ってもらったりしていた。
けれどその日は、電車の車内で柊がふと私を見た。
「今日さ、俺ん家来なよ」
「え……いいの?」
急なお誘いに、私の心臓がトクンと跳ねた。
今まで一度も彼の家に入ったことはなかったから、急激に緊張が押し寄せてくる。
どんな部屋なんだろう、柊の家族に会ったらどうしよう……そんな胸の高鳴りを抱えながら、私たちは柊の最寄り駅を降り、彼の自宅へと向かった。
(悪い印象を持たれたら嫌だな…)
緊張で手のひらにじっとりと汗をかきながら、柊の後ろについて玄関をくぐる。
「おじゃまします……」
靴を揃えて控えめに声をかけると、奥の部屋から足音が聞こえ、柊のお母さんがパッと顔を出した。
「ちょっと柊! 連れてくるなら前もって言っておいてよ〜!」
お母さんは慌てたように言いつつも、私を見るなりパッと親しみやすい笑顔を浮かべてくれた。
「はじめまして。下崎柚那です。急にお邪魔してすみません」
「はじめまして〜! 散らかってるけどゆっくりしていってね! 柊たら、こんなかわいい子捕まえてきたのね〜!」
気さくで温かいお母さんの雰囲気に、私の張り詰めていた緊張がふっとほぐれる。
「お菓子とか飲み物いるなら、遠慮しないでキッチンに取りに来なさいよ〜」
お母さんが優しく声をかけてくれた、その時だった。
「うるせーな、ほっとけよ」
隣で、柊が吐き捨てるようにそう言った。
私や友達に見せる爽やかで人懐っこい笑顔とは正反対の、低くてぶっきらぼうな声。
あまりに刺々しいそのトーンに、私は思わず息を呑んだ。
お母さんは少し苦笑いを浮かべながら、奥の部屋へ引っ込んでいった。
彼の部屋へ上がり、ドアを閉めた後も、私はさっきの刺々しい言葉が頭から離れず、思わず黙り込んでしまっていた。
(あんなに優しくしてくれたお母さんに、どうしてあんな言い方するんだろう……?)
注意する勇気なんて出なかったけれど、胸の奥がキュッと冷たくなるような、強い違和感が込み上げていた。
すると、視線を感じて顔を上げた瞬間、柊が冷ややかな目で私を見下ろしていた。
「なに? さっきから黙っちゃって」
「え……ううん、なんでもないよ」
「……別にいいだろ。普通だよ、家族なんてみんなこんなもんだって」
こちらの戸惑いを勝手に察したのか、柊の顔から完全に笑顔が消えていた。
私を突き放すような冷たい表情に、部屋の中の空気が一気に凍りつく。
それから柊はすっかり機嫌を損ね、口を開かなくなってしまった。
気まずくて息が詰まりそうな空間。何を選んで話しかけても、彼は生返事を返すだけだった。
結局、その日は気まずい雰囲気のまま、柊に自宅まで車で送ってもらうことになった。
車の助手席で、流れていく夜の街並みをただじっと見つめる。
(なんだったんだろう、さっきの柊……)
いつもの優しくて頼もしい柊と、お母さんに暴言を吐き、私に冷たい目を向けた柊。
胸の奥に、拭いきれない小さな違和感と不安が、静かに波紋を広げていた。
お母さんへの横暴な態度と、急な不機嫌……。柊の見え始めた裏側に小さな不安が募ります。続きが気になる方は、ぜひ【本棚登録】や【いいね♡】で応援してもらえると嬉しいです🌸
柊と付き合い始めてから、2ヶ月ほどが経った頃のことだ。
ある日の放課後。
いつもなら学校が終わると電車で柊の家へ行き、そのまま彼の車でドライブに出かけたり、自宅まで送ってもらったりしていた。
けれどその日は、電車の車内で柊がふと私を見た。
「今日さ、俺ん家来なよ」
「え……いいの?」
急なお誘いに、私の心臓がトクンと跳ねた。
今まで一度も彼の家に入ったことはなかったから、急激に緊張が押し寄せてくる。
どんな部屋なんだろう、柊の家族に会ったらどうしよう……そんな胸の高鳴りを抱えながら、私たちは柊の最寄り駅を降り、彼の自宅へと向かった。
(悪い印象を持たれたら嫌だな…)
緊張で手のひらにじっとりと汗をかきながら、柊の後ろについて玄関をくぐる。
「おじゃまします……」
靴を揃えて控えめに声をかけると、奥の部屋から足音が聞こえ、柊のお母さんがパッと顔を出した。
「ちょっと柊! 連れてくるなら前もって言っておいてよ〜!」
お母さんは慌てたように言いつつも、私を見るなりパッと親しみやすい笑顔を浮かべてくれた。
「はじめまして。下崎柚那です。急にお邪魔してすみません」
「はじめまして〜! 散らかってるけどゆっくりしていってね! 柊たら、こんなかわいい子捕まえてきたのね〜!」
気さくで温かいお母さんの雰囲気に、私の張り詰めていた緊張がふっとほぐれる。
「お菓子とか飲み物いるなら、遠慮しないでキッチンに取りに来なさいよ〜」
お母さんが優しく声をかけてくれた、その時だった。
「うるせーな、ほっとけよ」
隣で、柊が吐き捨てるようにそう言った。
私や友達に見せる爽やかで人懐っこい笑顔とは正反対の、低くてぶっきらぼうな声。
あまりに刺々しいそのトーンに、私は思わず息を呑んだ。
お母さんは少し苦笑いを浮かべながら、奥の部屋へ引っ込んでいった。
彼の部屋へ上がり、ドアを閉めた後も、私はさっきの刺々しい言葉が頭から離れず、思わず黙り込んでしまっていた。
(あんなに優しくしてくれたお母さんに、どうしてあんな言い方するんだろう……?)
注意する勇気なんて出なかったけれど、胸の奥がキュッと冷たくなるような、強い違和感が込み上げていた。
すると、視線を感じて顔を上げた瞬間、柊が冷ややかな目で私を見下ろしていた。
「なに? さっきから黙っちゃって」
「え……ううん、なんでもないよ」
「……別にいいだろ。普通だよ、家族なんてみんなこんなもんだって」
こちらの戸惑いを勝手に察したのか、柊の顔から完全に笑顔が消えていた。
私を突き放すような冷たい表情に、部屋の中の空気が一気に凍りつく。
それから柊はすっかり機嫌を損ね、口を開かなくなってしまった。
気まずくて息が詰まりそうな空間。何を選んで話しかけても、彼は生返事を返すだけだった。
結局、その日は気まずい雰囲気のまま、柊に自宅まで車で送ってもらうことになった。
車の助手席で、流れていく夜の街並みをただじっと見つめる。
(なんだったんだろう、さっきの柊……)
いつもの優しくて頼もしい柊と、お母さんに暴言を吐き、私に冷たい目を向けた柊。
胸の奥に、拭いきれない小さな違和感と不安が、静かに波紋を広げていた。
お母さんへの横暴な態度と、急な不機嫌……。柊の見え始めた裏側に小さな不安が募ります。続きが気になる方は、ぜひ【本棚登録】や【いいね♡】で応援してもらえると嬉しいです🌸
