章 環
高校を卒業して少し経った頃、私は明里と真美の三人で、二泊三日の卒業旅行に出かけた。
有名な温泉街の旅館に泊まり、美味しいものを食べ、夜遅くまで布団の中で恋バナに花を咲かせる。
はしゃぐ明里の屈託のない笑顔を見ていると、親友との絆が変わらず続いていく安心感で胸がいっぱいになった。
けれど、卒業式の日の夜、自分の部屋の宝物箱にそっとしまった、あの金色の『第二ボタン』の感触がふと頭をよぎる。
私を誰よりも大切に思ってくれた勇斗の温もりと、手のひらに残った心地いい熱。
その記憶に少しだけ胸をキュッとさせながらも、私は大好きな二人と一緒に笑っていた。
ーーーーーーーーーー
卒業という境界線を越えてから、勇斗との連絡は自然と「たまに」のペースに落ち着いていた。
『入学準備終わったー?』
数日ぶりに画面に届いた、勇斗からの短いメッセージ。
『今やっと終わったー! そっちは?』
『俺もさっき終わった。意外と荷物多いよな(笑)』
送信すれば、いつだって変わらない優しさで受け止めてくれる。
けれど、毎日廊下で顔を合わせていた頃とは違う。
自分から告白を断って「友達」でいることを選んだ手前、これ以上、彼の優しさに甘えすぎてはいけないような気がして。
繋がれてはいるけれど、少しずつ遠くなっていく彼との距離。
その埋まらない隙間に小さな寂しさを抱えたまま、私は新しい日常へと足を踏み出そうとしていた。
ーーーーーーーーーー
今日は、入学を控えた専門学校のオリエンテーションの日だ。
私服を整え、真新しいバッグを抱えて電車に揺られる。
少しの緊張と期待を胸に学校へ到着すると、受付でエレベーターに乗って指定の教室へ向かうよう案内された。
エレベーターホールで静かに待っていると、たまたま同じタイミングで一人の女の子が並んだ。
少しウェーブのかかった綺麗な髪に、落ち着いたトーンの服。どこか大人びた雰囲気を纏った女の子だった。
扉が閉じ、エレベーターがゆっくりと上がり始める。
ふと、その女の子がこちらを振り返り、柔らかい声で話しかけてきた。
「あの……教室まで案内されましたか?」
「あっ、はい! されました!」
私が慌てて答えると、彼女はパッと花が咲いたような笑顔を見せた。
「よかった! じゃあ同じクラスですね。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします! 私、下崎柚那(しもざき ゆずな)です!」
名乗った瞬間、彼女は驚いたように目を丸くし、くすっと可愛らしく笑った。
「あ! すごい似てる! 私、永野優奈(ながの ゆうな)です!」
『ゆずな』と『ゆうな』。
たった一文字違いの似た響きにすっかり親近感が湧いて、そこから優奈と打ち解けるのに時間はかからなかった。
教室で隣の席に座り話をしてみると、大人っぽく見える彼女は私と同じ18歳で、なんと隣の県から毎日通うのだという。
「隣の県からなんだね! 毎日の通学、結構大変じゃない?」
「うん! でも電車に乗ってる時間も結構好きだから、意外と大丈夫かも!」
そう言って爽やかに笑い飛ばす優奈の逞しさに、私まで勇気をもらった気がした。
その後の実習着の採寸や教材の配布も、優奈と一緒に回り、重たい教材を二人で笑いながら分担して持ち帰った。
「じゃあ、入学式でまたね!」
「うん! 一緒に行こうね!」
駅の改札前で、手を振り合って別れる。
帰り道の電車の中、窓の外を流れる春の暖かな景色を見つめながら、私はそっと息を吐いた。
高校生活が終わり、新しい出会いがあり、私の新しい時間がここから動き出そうとしている。
胸の奥に灯る小さな高鳴りと、部屋に残してきた静かな寂しさを抱えたまま、私は明日へと歩き出す。
新章・専門学校編がスタートしました!
これから動き出す柚那の新しい日常を「応援したい!」と思ってくださった方は、ぜひ下の【本棚登録】や【いいね♡】を押していただけると執筆の大きな励みになります✨
高校を卒業して少し経った頃、私は明里と真美の三人で、二泊三日の卒業旅行に出かけた。
有名な温泉街の旅館に泊まり、美味しいものを食べ、夜遅くまで布団の中で恋バナに花を咲かせる。
はしゃぐ明里の屈託のない笑顔を見ていると、親友との絆が変わらず続いていく安心感で胸がいっぱいになった。
けれど、卒業式の日の夜、自分の部屋の宝物箱にそっとしまった、あの金色の『第二ボタン』の感触がふと頭をよぎる。
私を誰よりも大切に思ってくれた勇斗の温もりと、手のひらに残った心地いい熱。
その記憶に少しだけ胸をキュッとさせながらも、私は大好きな二人と一緒に笑っていた。
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卒業という境界線を越えてから、勇斗との連絡は自然と「たまに」のペースに落ち着いていた。
『入学準備終わったー?』
数日ぶりに画面に届いた、勇斗からの短いメッセージ。
『今やっと終わったー! そっちは?』
『俺もさっき終わった。意外と荷物多いよな(笑)』
送信すれば、いつだって変わらない優しさで受け止めてくれる。
けれど、毎日廊下で顔を合わせていた頃とは違う。
自分から告白を断って「友達」でいることを選んだ手前、これ以上、彼の優しさに甘えすぎてはいけないような気がして。
繋がれてはいるけれど、少しずつ遠くなっていく彼との距離。
その埋まらない隙間に小さな寂しさを抱えたまま、私は新しい日常へと足を踏み出そうとしていた。
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今日は、入学を控えた専門学校のオリエンテーションの日だ。
私服を整え、真新しいバッグを抱えて電車に揺られる。
少しの緊張と期待を胸に学校へ到着すると、受付でエレベーターに乗って指定の教室へ向かうよう案内された。
エレベーターホールで静かに待っていると、たまたま同じタイミングで一人の女の子が並んだ。
少しウェーブのかかった綺麗な髪に、落ち着いたトーンの服。どこか大人びた雰囲気を纏った女の子だった。
扉が閉じ、エレベーターがゆっくりと上がり始める。
ふと、その女の子がこちらを振り返り、柔らかい声で話しかけてきた。
「あの……教室まで案内されましたか?」
「あっ、はい! されました!」
私が慌てて答えると、彼女はパッと花が咲いたような笑顔を見せた。
「よかった! じゃあ同じクラスですね。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします! 私、下崎柚那(しもざき ゆずな)です!」
名乗った瞬間、彼女は驚いたように目を丸くし、くすっと可愛らしく笑った。
「あ! すごい似てる! 私、永野優奈(ながの ゆうな)です!」
『ゆずな』と『ゆうな』。
たった一文字違いの似た響きにすっかり親近感が湧いて、そこから優奈と打ち解けるのに時間はかからなかった。
教室で隣の席に座り話をしてみると、大人っぽく見える彼女は私と同じ18歳で、なんと隣の県から毎日通うのだという。
「隣の県からなんだね! 毎日の通学、結構大変じゃない?」
「うん! でも電車に乗ってる時間も結構好きだから、意外と大丈夫かも!」
そう言って爽やかに笑い飛ばす優奈の逞しさに、私まで勇気をもらった気がした。
その後の実習着の採寸や教材の配布も、優奈と一緒に回り、重たい教材を二人で笑いながら分担して持ち帰った。
「じゃあ、入学式でまたね!」
「うん! 一緒に行こうね!」
駅の改札前で、手を振り合って別れる。
帰り道の電車の中、窓の外を流れる春の暖かな景色を見つめながら、私はそっと息を吐いた。
高校生活が終わり、新しい出会いがあり、私の新しい時間がここから動き出そうとしている。
胸の奥に灯る小さな高鳴りと、部屋に残してきた静かな寂しさを抱えたまま、私は明日へと歩き出す。
新章・専門学校編がスタートしました!
これから動き出す柚那の新しい日常を「応援したい!」と思ってくださった方は、ぜひ下の【本棚登録】や【いいね♡】を押していただけると執筆の大きな励みになります✨
