『柚那、今どこ?』
画面に表示されたLINEの通知に、ドキリと心臓が跳ねる。
少し震える指先で、私は急いで返信を打った。
『いろいろ終わったよー! 今どこにいる?』
送信すると、すぐに既読がつき、テンポよく返信が届いた。
『下駄箱横の自販機のとこにいるぞー』
返信を確認し、私はスマホを握りしめたまま、その場所へと足を早めた。
ざわざわとした歓声が遠ざかった昇降口。
西日に照らされた下駄箱横の自販機の前に、背の高い人影がぽつんと立っていた。
その姿を見つけて、私は駆け寄りながら小さく手を振った。
「勇斗……!」
声をかけると、勇斗がふっと振り返る。
けれど近づくにつれ、彼の制服に目が止まり、私の足がぴたりと止まった。
勇斗の学ランの胸元が、ぽっかりと開いている。
よく見ると、第二ボタンどころか、袖のボタンまで綺麗になくなっていた。
(……あぁ、そっか)
昨夜、電話越しに言われた『柚那にもらってほしい』というまっすぐな声が、頭の中で切なく響いていた。
モテる彼のことだから、断りきれずに他の子にあげてしまったんだろうか。
期待して走ってきた分、胸の奥がきゅっと冷たく痛んだ。
「おつかれー。とうとう卒業しちゃったな」
「……そうだね」
必死に平常心を装いながらも、どうしても視線が彼の開いた胸元に落ちてしまう。
私の沈んだ視線の意味に気づいたのか、勇斗がふっと優しく目を細めた。
「なんでボタンがないか考えてるだろ?」
「えっ、あ、いや……」
「実はさ。他の誰かに取られる前に、自分で取り外しておいたんだ」
「え……?」
驚いて顔を上げると、彼は制服のズボンのポケットから、大切そうに一つのボタンを取り出した。
夕日を受けて、小さな金色のボタンがきらりと光る。
「式が終わったあと、後輩たちに囲まれて全部無くなりそうになってさ。慌てて第二ボタンだけは、自分でポケットに隠したんだよ。……これだけは、絶対に柚那に渡したかったから」
照れくさそうに笑う勇斗が、まっすぐな瞳で私を見つめた。
「ちょっと、手、出してくれるか?」
「……うん」
小さく頷き、そっと両手を差し出す。
勇斗は私の手のひらの上にその金色のボタンを乗せると、そのまま私の手を彼自身の大きな両手でふわりと包み込んだ。
野球部で鍛えられた厚みのある手のひらから、彼の体温がダイレクトに伝わってくる。
私のために、後輩たちに囲まれながらもボタンを死守してくれた彼の姿を想像すると、胸の奥が熱くなり、愛おしさで視界が滲んだ。
「これ……もらってください」
「……っ、ありがとう。だいじに、するね……っ」
「ありがとな、受け取ってくれて」
春の陽気のような、とびきり甘くて穏やかな時間が流れる。
自販機の前で最後の一枚の写真を撮り終えると、私たちは並んで駐輪場へと歩き出した。
オレンジ色に染まる空を見上げながら、勇斗がふいに立ち止まって口を開いた。
「柚那。……俺たちが二十歳になったときさ。もしお互いに、隣に別の彼氏や彼女がいたとしてもさ……二人で、酒飲みに行こうな」
そのまっすぐな約束は、私の気持ちを一切縛らない、勇斗なりの最大の優しさだった。
あの日と同じ、夕暮れの道。
告白を断って「私、最低だよね」と泣く私の頭を、彼は優しくポンと撫でてくれたっけ。
けれど、今の涙は違う。
あの日のような自分を責める気持ちなんて1ミリもない。ただ、彼がくれる大きすぎる愛情が嬉しくて、涙が溢れて止まらなかった。
「うん……っ! もちろん……っ、約束ね……っ!」
ポロポロとこぼれ落ちる涙を拭えずにうつむくと、勇斗は困ったように優しく笑った。
「っ本当、すぐ泣くんだから……」
彼はゆっくりと腕を伸ばし、私の肩を引き寄せると、そっと自分の胸元に抱き寄せる。
「……今日だけ、な」
ボタンのなくなった制服の胸元から、彼の力強い心音と、いつも彼がつけている爽やかな香水の匂いがふわりと鼻をかすめた。
強く抱きしめるわけじゃない、彼なりの優しくて、もどかしい距離感。
でも、その腕の温もりは、息ができなくなるほど甘かった。
「なんかさ、学校でもう顔を合わせることがないと思うと、やっぱり寂しいな。たまに連絡するから、そのときはちゃんと返してくれよな!」
そっと身体が離れ、照れくさそうに笑う勇斗に、私は涙を拭って何度も頷いた。
「ふふっ……わかった。ちゃんと返すよ」
「じゃあ、気をつけて帰れよ。専門学校がんばれな」
「うん、勇斗もね」
ひらひらと手を振り、彼は自転車に乗って走り出した。
夕日に照らされた彼の背中を見送りながら、私はポケットの中の第二ボタンをそっと握りしめた。
金属のひんやりとした硬い感触が、手のひらの熱でじわじわと温まっていく。
その奥から、勇斗の温もりが、まっすぐに心まで伝わってくる気がした。
記念すべき第100話をお届けしました。
あの夕暮れの自販機の前、自分の手で第二ボタンを隠し持っていた勇斗の一途な想い……。 勇斗の不器用な優しさに胸がキュンとした方は、ぜひ下の【いいね♡】で勇斗に応援を届けていただけると嬉しいです!
いよいよ次回から、物語は新章・専門学校編へ。 柚那たちの新しい歩みを、ぜひ【本棚登録】で見守ってください🌸
(※勇斗の「今日だけ、な」のハグ、皆さんはどう感じましたか? ぜひひとこと感想のボタンで教えてください✨)
画面に表示されたLINEの通知に、ドキリと心臓が跳ねる。
少し震える指先で、私は急いで返信を打った。
『いろいろ終わったよー! 今どこにいる?』
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『下駄箱横の自販機のとこにいるぞー』
返信を確認し、私はスマホを握りしめたまま、その場所へと足を早めた。
ざわざわとした歓声が遠ざかった昇降口。
西日に照らされた下駄箱横の自販機の前に、背の高い人影がぽつんと立っていた。
その姿を見つけて、私は駆け寄りながら小さく手を振った。
「勇斗……!」
声をかけると、勇斗がふっと振り返る。
けれど近づくにつれ、彼の制服に目が止まり、私の足がぴたりと止まった。
勇斗の学ランの胸元が、ぽっかりと開いている。
よく見ると、第二ボタンどころか、袖のボタンまで綺麗になくなっていた。
(……あぁ、そっか)
昨夜、電話越しに言われた『柚那にもらってほしい』というまっすぐな声が、頭の中で切なく響いていた。
モテる彼のことだから、断りきれずに他の子にあげてしまったんだろうか。
期待して走ってきた分、胸の奥がきゅっと冷たく痛んだ。
「おつかれー。とうとう卒業しちゃったな」
「……そうだね」
必死に平常心を装いながらも、どうしても視線が彼の開いた胸元に落ちてしまう。
私の沈んだ視線の意味に気づいたのか、勇斗がふっと優しく目を細めた。
「なんでボタンがないか考えてるだろ?」
「えっ、あ、いや……」
「実はさ。他の誰かに取られる前に、自分で取り外しておいたんだ」
「え……?」
驚いて顔を上げると、彼は制服のズボンのポケットから、大切そうに一つのボタンを取り出した。
夕日を受けて、小さな金色のボタンがきらりと光る。
「式が終わったあと、後輩たちに囲まれて全部無くなりそうになってさ。慌てて第二ボタンだけは、自分でポケットに隠したんだよ。……これだけは、絶対に柚那に渡したかったから」
照れくさそうに笑う勇斗が、まっすぐな瞳で私を見つめた。
「ちょっと、手、出してくれるか?」
「……うん」
小さく頷き、そっと両手を差し出す。
勇斗は私の手のひらの上にその金色のボタンを乗せると、そのまま私の手を彼自身の大きな両手でふわりと包み込んだ。
野球部で鍛えられた厚みのある手のひらから、彼の体温がダイレクトに伝わってくる。
私のために、後輩たちに囲まれながらもボタンを死守してくれた彼の姿を想像すると、胸の奥が熱くなり、愛おしさで視界が滲んだ。
「これ……もらってください」
「……っ、ありがとう。だいじに、するね……っ」
「ありがとな、受け取ってくれて」
春の陽気のような、とびきり甘くて穏やかな時間が流れる。
自販機の前で最後の一枚の写真を撮り終えると、私たちは並んで駐輪場へと歩き出した。
オレンジ色に染まる空を見上げながら、勇斗がふいに立ち止まって口を開いた。
「柚那。……俺たちが二十歳になったときさ。もしお互いに、隣に別の彼氏や彼女がいたとしてもさ……二人で、酒飲みに行こうな」
そのまっすぐな約束は、私の気持ちを一切縛らない、勇斗なりの最大の優しさだった。
あの日と同じ、夕暮れの道。
告白を断って「私、最低だよね」と泣く私の頭を、彼は優しくポンと撫でてくれたっけ。
けれど、今の涙は違う。
あの日のような自分を責める気持ちなんて1ミリもない。ただ、彼がくれる大きすぎる愛情が嬉しくて、涙が溢れて止まらなかった。
「うん……っ! もちろん……っ、約束ね……っ!」
ポロポロとこぼれ落ちる涙を拭えずにうつむくと、勇斗は困ったように優しく笑った。
「っ本当、すぐ泣くんだから……」
彼はゆっくりと腕を伸ばし、私の肩を引き寄せると、そっと自分の胸元に抱き寄せる。
「……今日だけ、な」
ボタンのなくなった制服の胸元から、彼の力強い心音と、いつも彼がつけている爽やかな香水の匂いがふわりと鼻をかすめた。
強く抱きしめるわけじゃない、彼なりの優しくて、もどかしい距離感。
でも、その腕の温もりは、息ができなくなるほど甘かった。
「なんかさ、学校でもう顔を合わせることがないと思うと、やっぱり寂しいな。たまに連絡するから、そのときはちゃんと返してくれよな!」
そっと身体が離れ、照れくさそうに笑う勇斗に、私は涙を拭って何度も頷いた。
「ふふっ……わかった。ちゃんと返すよ」
「じゃあ、気をつけて帰れよ。専門学校がんばれな」
「うん、勇斗もね」
ひらひらと手を振り、彼は自転車に乗って走り出した。
夕日に照らされた彼の背中を見送りながら、私はポケットの中の第二ボタンをそっと握りしめた。
金属のひんやりとした硬い感触が、手のひらの熱でじわじわと温まっていく。
その奥から、勇斗の温もりが、まっすぐに心まで伝わってくる気がした。
記念すべき第100話をお届けしました。
あの夕暮れの自販機の前、自分の手で第二ボタンを隠し持っていた勇斗の一途な想い……。 勇斗の不器用な優しさに胸がキュンとした方は、ぜひ下の【いいね♡】で勇斗に応援を届けていただけると嬉しいです!
いよいよ次回から、物語は新章・専門学校編へ。 柚那たちの新しい歩みを、ぜひ【本棚登録】で見守ってください🌸
(※勇斗の「今日だけ、な」のハグ、皆さんはどう感じましたか? ぜひひとこと感想のボタンで教えてください✨)
