「ジルグロッセ様、早馬が手紙を届けにきましたよ。城でシャーリー様が目を覚まされたそうです」
「目を覚ましたのか!? 体調は!?」
「目を覚ました、としか連絡が来ておりません。体調までは……。通信系の魔法使いが見つかればいいのですがね。双子の魔法使いは、滅多に生まれてきませんから」
「そ、うか……。そうだな」
思わず立ち上がるが、しなしなと着席。
シャーリーが目を覚ます前に『神々の裁き』がオーディール神教国に下された結果、ジルグロッセはギャランゼ砦に戻ってこざるを得なかった。
仕方がない。
この砦の最高責任者でもあるのだから。
別の場所と別の場所で繋がる通信系特殊魔法、[思念]は、存在するには存在する。
だが、条件が“双子”の“魔力持ち”で“双方適性がある”。
そのため、世界的に見ても滅多にいない。
下手したら、聖人や聖女よりも存在が物珍しいのだ。
帝国であってもそんな珍しい存在の確保はできていなかった。
存在していてくれたなら、戦況はまた違っていただろうが――。
(いや、もう戦争は終わりだ。敵国であるオーディール神教国がなくなったのだから)
はあ、と溜息が出る。
ともかく、シャーリーが目を覚ましたという報告には安心した。
聖人や聖女は神力を使うと一日休みを入れなければならない。
神の生まれ変わりであり、神の力を用いることのできる特別な存在ではあるが、やはり人間の肉体では神の力はあまりにも負担が大きいのだろう。
しかも、今回シャーリーが行った『神の書』への問い合わせは、知識の神アルヴァーニュが直接降臨し、顕現するということが起こった。
あれには、本当に驚いた。
だが、おかげで『帝国が正しい』という神からの啓示が示されるととなり、帝国と皇帝の権威は確固たるものとなったのだ。
そして、先日起こった『神々の裁き』。
これにより帝国は八神の意を代行したとして、のちの数百年は安泰であろう。
その代償として、シャーリーは普通の聖人聖女よりも長い時間の休眠を強いられた。
(本当なら、ずっと側に……目覚めるまでいたかった。だが……)
拳を握りながらも、書類仕事に戻る。
そんな中、ふととある報告書類が目に留まった。
「そういえばシャーリー様が注意を促してくださった橋や崖の崩落ですが、事前に立札や通達を行っていたおかげで速やかに修繕や瓦礫の撤去が行えましたよ。知識の神アルヴァーニュ様の聖女であるとわかる前から、シャーリー様は我々の聖女でしたからね」
「ああ」
他にも『火事が起こるなら村や町ごとに貯水を重点的に行った方がいい』『地震が起こるなら家具の固定をした方がいい』『津波が来るなら高台に避難所を作った方がいい』等の助言ももらっていたので、そのように指導を行ったり、高台に避難所を建設したりした。
元々ジュレッザ国ギャランゼ砦に人的被害はなかったのだが、それ以外の被害――国民たちの財産や今後の健康も守られたのだ。
シャーリーの助言は、いつも多くの人を救ってくれる。
彼女の知識欲のおかげだろう。
そう、彼女が聖女だからではない。
(シャーリーが、シャーリーだったおかげだ。彼女のおかげで、こちら側に被害がほとんど出なかった。なにか……礼のようなことをしたい。なにがいいのか……)
本、とは思う。
だが、『神の書』まで読める彼女が今更――いや、彼女に差し出せるものが一つ、ある。
「ソルド、便箋を」
「お手紙ですか? シャーリー様へ?」
「いや、父とアビゲイルに。シャーリーが目を覚まして、体調が整ったのであれば、彼女に“本を読む時間”を作ってやってほしい、と頼んでおこうと思って。花嫁修行は、しばらく休ませるよう」
「なるほど! シャーリー様はお忙しいですからね」
シャーリーが忙しい理由は皇族への嫁入りのための花嫁修業に時間を取られているからだ。
その修業を、一時的に休みにしてもらい、シャーリーが好きなだけ本を読み漁れるようにしてやってほしいと頼む手紙を書く。
これで喜んでくれたらいいのだが。
(喜ぶ顔が見たい。直接見れたらいい。だが、見れなくても喜んでくれるだけでもいい)
手紙を書き終えると、封筒に入れて封蝋で封をする。
ソルドに手渡し、書類仕事に戻ろうとするともう一通分、便箋と封筒を渡された。
不思議に思いながらソルドを見上げるとにっこりと微笑まれる。
「な、なんだ?」
「ちゃんとシャーリー様にもお見舞いと感謝の手紙を書くべきでは?」
「あ」
完全に忘れていた。
目が覚めたと聞いたのに、肝心の婚約者への手紙を書いていないのはまずいだろう。
慌てて書き始めるが、相変わらず我ながらただの報告書のようだ。
だがシャーリーには『読みやすい』と言ってもらった。
だから変えなくてもいいだろう。
(災害被害については……書かなくてもいいだろう)
『神の書』を読み上げただけではあるが、それでも大勢の人間が死んだ。
神の怒り、裁きの結果だ。
シャーリーはなにも悪くない。
だが、『予言』を読んだ者にも精神的に死者への罪悪感を覚えてしまうだろう。
シャーリーは、特に優しいから。
だから、シャーリーへの手紙には『気に病まないように』と書き加える。
「はあ……」
「なんですか、その溜息は」
「帝都に変えれる理由は処刑だろう?そんな理由で帰ってシャーリーに会うのが……な」
「それは……確かに。でも仕方がありません。帰れるだけましでしょう」
「確かに」



