あの時間を忘れる方法が あるなら

『結愛、説明会はどうだった?』

「うん‥‥辰哉君のおかげで仕事が決まったからお礼を伝えに来たんだ。ここも出て行かないといけないから時々おばあちゃんの様子を配達がてら気にかけてもらえたら嬉しいなって」

本当は居心地のいいここにずっと居たい‥‥

でもここにいて殻に閉じこもって逃げていても忘れられないのだ‥‥

『お前が決めたことなら応援するからしっかりやって来い。ただ帰る場所がない時はまたここに戻って来い。結愛1人くらいなら死ぬまで面倒くらい見てやるから』

「ありがとう‥‥そんな事にならないように頑張って来るよ。」

『そうと決まれば、お祝いでもするか?』

お酒の瓶を両手に振って見せる仕草に思わず面白くて笑ってしまうと気が付いた

こんな風に笑ったのが久しぶりだということを

私を自然と笑顔にしてくれた辰哉君の優しさにも先程での落ち込みも和らぎ、軒先に置かれた椅子に腰掛けてお酒を2人で飲みながら楽しんだ


『結愛ちゃん。またいつでも気兼ねなくここに来ていいからね。おばあちゃんはここから応援してるから‥』

「ありがとう‥おばあちゃん。」

私の両手を皺の寄った温かい手で包み込んでくれる優しさに笑顔を向けると、背後で車が停まる音に振り返った

『佐々木さん、お迎えにあがりました。我が社が用意した家までお送りします』

‥‥八雲さん

昨日渡された書類に確かに家の事が書かれていた。オフィスに近く徒歩で行ける距離に用意されたマンションで、家具や家電も全て揃ったマンスリータイプだと。

実家から通えないこともないから最初は断ったが、朝早くから夜までの勤務を考えると家賃も安かった為頷くしかなかった